キャラメルボックス「夏への扉」 何もかもが愛おしい

キャラメルボックス「夏への扉」 何もかもが愛おしい

かつてオールタイムSFベストの1位に輝いたこともある(2014年にSFマガジンが創刊700号記念に行った調査では9位でした。1957年に書かれた作品なので、50年以上たってもまだ10位以内にはいっているのも凄いですが)タイムトラベル小説の名作中の名作「夏への扉」
私も中学生の時に福島正実さんの訳で初めて読んで、人間関係がうまくいかずに悩んでいた学生時代や女の子に振られた時とか、凹むときには再読して浮上のきっかけにしていた大切な作品です。

東日本大震災に遭い公演の一部中止もあった2011年の初演から7年ぶりの再演。
今回は関西での公演は兵庫県明石市で平日の2日間3公演のみ、3月末のなかなか厳しい日程でしたが、この作品はどうしても無理をしてでも観たかったので、休みを都合つけて行ってきました。

小説の世界が目の前にある

https://youtu.be/WzbzNXN_hxU

1970年、ダニエル・デイビスは失意のどん底にいた。大学で機械工学を学んだダニエルは、親友と二人で会社を設立。ハイヤード・ガールと名付けたロボットの開発に成功した。が、婚約中の恋人と親友が仕組んだ罠に嵌められ、会社とロボットを奪われたのだ。ダニエルに残されたのは、飼い猫のピートだけ……。彼は裏切り者二人への復讐を誓うが、逆に捕らわれの身となり、コールドスリープの冷凍場に送られてしまう。そして、長い眠りから覚めた時、そこは30年後の、2000年だった! 会社は? ロボットは? そして、愛猫ピートは? すべてを失ったダニエルは、起死回生の一手を打つ!

友人と恋人に裏切られたダニエル、そして愛猫のピート、ダニエルに憧れる友人の娘リッキィ。
11ある(またはピートのための1つも加えて12あるのかな)扉が浮かぶ特徴的な舞台セットで描かれる1970年・2000年の「近未来」。
何もかもが小説で描かれているものとは違うはずなのに、演劇の魔力か、そこには自分が大好きな「夏への扉」の世界が広がっています。

登場人物もそれぞれ作り込みが素晴らしく、客演だった少年社中井俣太良さんとDULL-COLORD POPの百花亜希さんのジョン、ジェニイ夫婦の安心して信頼できる雰囲気や、ダニエルが作り上げた発明品の4体はどれもその挙動の一つ一つにワクワクします。

なにしろ猫のピートを演じるのは、劇団一のゴツい体をした筒井俊作さん。ダニエルが持つ大きなバッグからピートが登場するシーンは、初見であれば絶対に驚くはず。

私も好きな福島正実さんの訳で紡がれた原作の言葉は、お芝居の所々で採用されています。特にラストシーンは、俳優が本を持ちエピローグを読み上げます。もちろんその最後は主人公のダニエル。
そしてもちろん、僕はピートの肩を持つ。」
と、ピートと目を合わせた瞬間の暗転は、「最高かよっ!」と思わずにいられません

ベル・ダーキンに騙されてもいい

ダニエル(畑中智行さん)、ピート(筒井俊作さん)、そしてマイルズやトウイッイェル(大内厚雄さん)の演技を観ていると初演時の楽しさが蘇ってきますが、今回は何をおいてもベル・ダーキンを演じた原田樹里さんが素晴らしすぎました。

ベル・ダーキンは主人公のダニエルをだまし、冷凍催眠に送り込む悪女中の悪女。
ダニエルの婚約者として性的魅力を振りまき、ダニエルを裏切り悪女の本性を見せ、そして、30年後の2000年でダニエルと再会します。

最初の登場シーン、ダニエルに媚びを売るかのような表情にドキッとします。ダニエルとマイルズの会社の美人秘書といった風貌ですが、ピートやリッキィには嫌われています。
ダニエルを騙したことが明らかになり、挑発に乗って裏の顔が表にでた瞬間の表情の変化は激烈です。薬剤をダニエルにうち、命を奪おうと考えてマイルズに指示をだす姿は容貌の美しさに反した心の冷たさが声に表情に現れます。
そして、2000年のベルは60代。既に美しさという彼女の武器を失っていることには気付いないままの老女の愚かさが強調されます。胸元はあらわに、足もはだけているにもかかわらず、目を背けたくなるほどの哀れさしかありません。

3つのベルを演じた原田樹里さん……20代なんですよね。昨年夏に「スロウハイツの神様」で赤羽環を演じた時にもドキッとしましたが、このベルには完全に心を持っていかれました。
このベルになら有り金全部持って行かれても仕方がないと思ってしまうくらい最高のベル・ダーキンでした。

次は演劇の素晴らしさが詰まった「無伴奏ソナタ」

キャラメルボックスの次回公演は2014年以来の再再演となる「無伴奏ソナタ」。

https://youtu.be/uKWuQH6GNEY
「夏への扉」と同様に原作物ですが、誰にでも分かって、誰にでも舞台の素晴らしさを伝えられることができる本当に良作です。

今年はグリーティングシアターということで、東京、大阪だけでなく栃木、愛知、松本でも公演を行われます。

「もしも音楽の天才が、音楽を禁じられたら?」

天才でも凡人でも、観ればガツンと心に響く物語です。ちょっとでも気になったらぜひチェックしてみてくださいませ。

公演名 キャラメルボックス2018スプリングツアー「夏への扉」
公演期間 [東京]2018年3月14日(水)~25日(日)
[明石]2018年3月28日(水)・29日(木)
場所 [東京]サンシャイン劇場
[明石]アワーズホール
サイト 公演詳細ページ / 公演公式Twitter

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があ 男性

大阪生まれ・育ち・勤めの雑食系公務員。 福祉職だと勘違いしている人が大多数ですが下っ端事務職。濃い顔付きから沖縄人やらトルコ人やら間違える人大多数。違う、違うんだよ~

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