- 2014年3月16日
「生活保護通知・通達総索引」2013年度版 ver1.10更新しました!
昨年末に公開しました「生活保護通知・通達総索引2013年度版」。 公開以来、続々と……と言うわけではありませんが、公……
今回は、かなり「堅い」記事でございます。そして長いです。
一昨日。12月26日の御用納のバタバタした中、大阪市のCW(ケースワーカー)に投げつけられた爆弾のような報道発表。
さっそく自身のfacebookで取り上げたところ、普段はお友だちの20くらいの「ええやん!」で穏やかにやらせてもらっているウチのフィードに、100以上の「ええやん!」がつきました。そして、その8割近くが友だちでも普段ウチのフィードを読んでもいない方。
予想通り高い注目をあび、ネット上には様々な反響が溢れています。その中には、明らかに誤った情報や煽りがあり、受給者の方が見ると不安に思うことも多いかと思い、生活保護行政に携わる一人として現時点での雑感を書いてみようと思いました。
えーと、非常に面倒なことですが、はじめてこのブログを読みに来られる方もいると思うので、前もってこの記事の前提条件を。すみませんね~、色々と立場上大変なんですよ……
[note]
・私は大阪市某区で生活保護のSV(査察指導員)をしています。10年以上、生活保護に携わっています。
・今回の発表について、報道発表された情報以上のものは、ほとんど持ち合わせていません。
・当たり前ですが、ここで書く内容はSVとしてのウチ個人の意見であり、大阪市の公式見解ではありません。
・実際に実務を行っていく中で、ここに書いた意見が変わる可能性は多分にあります。あくまで、12月28日現在の意見です。
さて、本題に入ります。
発表された内容は大阪市のホームページにも掲載されていますが、こちらの記事が、報道発表時の文字起こしに近いものですので分かりやすいかと思います。
事業の概要を簡単にまとめると、
[important]・生活保護受給者に毎月支給される生活保護費の内、月額3万円を貸与したVisaプリペイドカードにチャージ(入金)する形で支給します。
・受給者は、加盟店でチャージされた金額内で自由に買い物ができます。
・カードにチャージされた保護費は現金化(引き出し)することはできません。
・今回はテスト実施(半年から1年)のため、平成27年2月から希望者を募り、その後実施(予定)(おそらく年度が変わってからなので5月くらいかと……)。
[/important]
と、いうものになります。
全国でも初めての試みということもあって、賛否ともどもありまして、反対する方はchange.orgで署名を集めているようで、今見るとほぼ1,000件ほどの賛同を得ているようです。
制度への賛否はこれを読む方も含めて個々の判断です。ここでは報道発表後にTwitterや2chまとめなど、様々なところで出ている意見や課題について、私なりの回答というか現場のケースワーカーから見た意見を書いて、読む方のそれぞれの判断材料にしていただければと思います。
[help]プリペイドだから現金化できるから意味がない。転売する奴出てくるんじゃないの?[/help]
プリペイドカードという名前になっているので、QUOカードや図書カードのようなイメージを持っている人もいるでしょうが、実態はクレジットカードの仕組みを使った電子マネー。カードそのものを転売して現金化した場合、翌月以降の保護費が受給者本人の手に渡らないことになるので、転売する旨味がないですね。
カードの再交付は可能ですが、頻繁にそういった事があれば当然、CWも転売などの事態に気付きますね。
[help]生活保護費は「現金支給」が大原則じゃないのか?[/help]
生活保護法第31条の「生活扶助は、金銭給付によつて行うものとする。」とされている所を指しているんでしょうが、この条文はこう続きます。「但し、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、現物給付によつて行うことができる。」
私自身は今回の電子マネーによるチャージは「金銭給付」でしょ? と思うのですが、使用用途の限られた電子マネーという「物」とした場合でも、特に法令上反した形ではないと思います。
[help]生活保護費で何を買うかを決めるのは自由なはず。プライバシーの侵害だ。[/help]
テスト実施ではチャージされた生活保護費について使用制限などを設けていないと聞いています。
今後、特定業種に対する使用制限や一日辺りの利用限度額を設けるなどの機能追加を検討していますが、生活保護法第60条で「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。」とされており、特定業種に対する使用制限や一日辺りの利用限度額を設けるなどの機能追加は、ギャンブルなどで生活費を浪費するような世帯に対して自立支援していく中では必要なんじゃないでしょうか?
ただし、その設定(ギャンブルに使えるお金は○○円までとか)は全受給者に一律に同じものにするべきではない、と思いますが。
利用明細を福祉事務所が照会できることについて、「プライバシーの侵害」というのはなんか違う気がします。
そういった照会は、生活保護法第29条で「保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決定若しくは実施又は第七十七条若しくは第七十八条の規定の施行のために必要があると認めるときは、次の各号に掲げる者の当該各号に定める事項につき、(中略)又は銀行、信託会社、次の各号に掲げる者の雇主その他の関係人に、報告を求めることができる。」とされていることを根拠にする訳ですが、そもそも生活保護法第61条で、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」とされていて、正しい申告がされなかったり、疑義が生じれば、事実確認のために必要であれば照会をかけると思います。
ぶっちゃけ…………いかん、言葉が荒くなりそうになった。
常に毎月毎月、全受給者の買い物の明細を取って確認するなんてことはあり得ません。正直なところ、そんな暇もなければ、照会にかかる郵送費用を掛けて得られる物は何もないじゃないですか。「保護の実施に必要があると認めるとき」だから照会をかける。それは「プライバシーの侵害」でしょうか?
あと、今回のカードですが、クレジットカードの仕組みを使っているので、おそらく照会をかけても個々の購入物までの詳細な明細は取れないものと思われます。例えば、○○ストアで¥2,500円支払ったことは分かっても、胡瓜を何本買っただとかは分からないかと。未確認ですが。
[help]受給者には現金が残らないので、緊急の出費を見越した貯蓄ができない。[/help]
生活保護費を切り詰めて貯蓄に回すことは「生活保護の趣旨目的に反しない」場合、認められています。
そもそも、生活保護費(生活扶助)は、毎月使い切ることを想定して基準額が定められている訳ではなく、衣類や電化製品、生活用品などの購入費用など緊急の出費を見越して貯めておくというのは必要なことです。
今回のカードがそれに反しているか? という話なんですが、チャージされた保護費(テスト実施は3万円)はその月に使い切らなきゃ消えてしまうお金じゃないですよね。現金で残すか電子マネーで残すかの違いはあっても、翌月に必要なのであれば残しておけば良いと思います。
ただ、Visaプリペイドの仕組みをサイトで確認したところ、チャージの上限は5万円の模様。リンク先はプリペイドeの説明なので、もしかしたら上限額が違うかもしれませんが、この金額だと翌月への繰り越しとしてはちょっと余裕が無いなぁという気がします。
そういう意味でチャージ上限額はある程度の余裕をもった仕組みにすべきだとは思います。
[help]生活保護費をカード払いにすることで、三井住友カード(株)等に多額の公金が支払われる。無駄だ。[/help]
先にあげた反対署名のサイトでは、
つまり、プリペイドカードを導入することで、カード発行元企業である三井住友カード株式会社およびデータ基盤を整備する富士通総研は、「生活困窮者」でないにもかかわらず「生活保護費」を入手することとなります。
と書いているんですが、頭の中にハテナマークが溢れてしまいました。
今でも、生活保護費の支払いは窓口での現金払い、各金融機関への口座振り込みで支払われているんですが、これが「「生活困窮者」でないにもかかわらず「生活保護費」を入手する」ということになるんでしょうか?
うーん、よく分からないですね。
現在、生活保護費を窓口で現金払いするのは、金融機関や職員の膨大な作業が必要でコスト的な問題もあって、できる限り金融機関への口座振り込みにするようにしています。今回のカード払いですが、各金融機関の口座振り込み手数料より安いような気がします。(未確認)。少なくとも生活保護費を窓口で支払うことに要する職員の人件費や、金融機関に支払う事務手数料よりは少なくて済むはずです。
決済手数料についても述べられていますが、受給者や大阪市が決済手数料を支払う訳ではない(通常、決済手数料は店舗がカード会社に支払う)ので、「公金が」「生活保護費が」というのは的外れだと思います。
ただ、今回のテスト実施でいうと3万円×2,000人(見込み)の電子マネーが動くことになるので、当然その商取引に発生する決済手数料などの利益を、三井住友カード(株)等が享受するというのは事実。制度の本格実施に踏み切る時には、事業者については当然、競争入札などの手続きは必要だと思います。
[help]使えるお店が少ないのでは?[/help]
これが一番の問題じゃないかなぁ……
具体的にTwitterで挙がっていた事例だと「スーパー玉出」(大阪ローカルのスーパー)で使えないとか、個人商店などではVisaを取り扱っていないお店はまだまだ多いでしょうし。
Amazonや楽天などのネット店舗では問題なく使えますが、コンビニやイオンなどの大手ショッピングモールなどの大手以外のリアル店舗で使用できるところが少なければ全く機能しない訳で。
Visaのサイトを見に行っても、導入している店舗などは分からないので……実務的には、どこで使えるのか? 使えないのか? を示すとかいるかもなぁ……
他にも、「この制度は橋下市長の思いつきで政治的なパフォーマンスだ」とか、「カードを与えることで生活保護受給者というスティグマ(ネガティブな意味のレッテル)を植え付ける」とか、まぁ色々な話はありますが、その辺りは大雑把に言うと「ちゃう(違う)」ということで。
書き足りないこともあるとは思いますが、読まれる方の何か参考になれば幸いです。
商取引時の手数料ですが、全国展開と利便性を視野に入れると税金で手数料分を負担する必要が出てくると思います。
大手スーパーは別としても小売店の事業者はこの手の負担をものすごく嫌がります。
(嫌がらないなら家計簿の自動化とかももっとやりやすくなんですが…)
あと、プリペイドカード実施に伴い、富士通総研にシステム構築を依頼しているはずなので、その費用も当然掛かりますし、本気で支出適正化に努めるなら監視システムを構築する必要があります。(人力だけでは回せないと思います)その費用は数千億単位になると思われるので、自立支援強化が目的なら別の方策を取った方がいいかと思います。
自立支援に限って言えばケースワーカーが高齢者の家を訪問したところで高齢者が自分の力で生活できるわけではありませんし、働きながら生活保護を受けている人のところに出向いたところで年収が上がるわけではありません。生活保護にもトリアージのような考え方を導入したほうがいいのではないかと思います。
>カードそのものを転売して現金化した場合、翌月以降の保護費が受給者本人の手に渡らないことになるので、転売する旨味がないですね
もし、俺だったら、カードを回収して、そのカードでできるだけ安価な食品を買い、残りは全部懐に入れます。
もちろん、転売はできませんが、EdyやSuicaにチャージすることはできます。Suicaにチャージできれば何を購入したかはわかりませんし、現状であればSuicaのほうが便利なので利便性という理由でケースワーカーを説き伏せることもできます。
Suicaにチャージは受給者が使うこともできます。そして、このSuicaで酒類やオンラインゲーム内で使うポイントを買うことはできるので、そういう方向での不適切な支出は抑制できないと思います。
>さびねこにゃさん
コメントありがとうございます。
頂いたコメントへの件について、「個人的な見解」ですが、回答してみたいと思います。
まず、商取引時の手数料ですが、全国展開するしないに関わらず、税金で手数料分を支払うことはないんじゃないかと思います。
非常に汚い話ではあるんですが、生活保護の分野だけで言うと、必要性がないんです。使える店が少なかろうと、「使える店それなりにあれば」敢えて、新たな補助金などを出して店を増やす必要性はないんです。
例えば商店街振興などの施策であれば、行政が補助金などを必要とする理屈は多少は出てくるとは思いますが。
あと、このシステム「監視」が一番の目的ではないですよ。自立支援のアイテムの一つではありますけど、ウチは一番はやはり保護費支払時の経費削減だと思っています。
EdyやSuicaへのチャージが可能かどうかは、まだ未確認ですが、詳しくは書きませんがEdyやSuicaに移せばなんとかなると思っているのは「かなり甘い」です。
あと、何度も言いますが、この制度で「監視強化」だと思っているのは「違う」と思いますよ。この制度を聞いて「監視しやすくなる」と思っているCWは少ないかと。
不正受給や受給者への助言・指導への考え方は一般的に捉えられている感覚と、私たちの感覚とはかなり違うかと思うのですが、この辺りはなかなか説明が難しいですね。
生活保護にトリアージの考え方を、というお話ですが、大阪市では現在、60歳以上の準高齢者・高齢者とそれ以下の稼働年齢層はCWの人数を分けて配置しています。
この辺りは個人的な考えは色々とあるのですが、ここではコメントを差し控えたいと思います。
返信ありがとうございます。
>例えば商店街振興などの施策であれば、行政が補助金などを必要とする理屈は多少は出てくるとは思いますが。
橋下市長は導入の目的として「クレジットカード利用店舗を増やして外国人観光客を増やす」というのを言っていたので、大阪市内ならあり得るかもしれません。国全体ではどうなるかはわかりませんが
>EdyやSuicaへのチャージが可能かどうかは、まだ未確認ですが、詳しくは書きませんがEdyやSuicaに移せばなんとかなると思っているのは「かなり甘い」です。
そこから先も追跡できるんですね。
できなかったら、結構まずいことになりそうな予感がしたのですが、そうではない用で安心しました。
>生活保護にトリアージの考え方を、というお話ですが、大阪市では現在、60歳以上の準高齢者・高齢者とそれ以下の稼働年齢層はCWの人数を分けて配置しています。
もうすでにやっておられたのですね。失礼しました。
>この制度を聞いて「監視しやすくなる」と思っているCWは少ないかと。
このプロジェクトにかかわっている富士通総研という会社は「生活者行動分析サービスDo-Cube」という機械学習のシステムを作っている会社です。
機械学習のシステムを使えば生活保護世帯かつオンラインゲーム廃人の人を見つけ次第メールを送ることもできるので、ある程度は楽になりそうな予感がします。
ただ、機械学習は発展途上なので、数千万かけてごみクズができたという可能性もなきにしもあらずですが…