観劇雑記:劇団P・T企画「インディアン島の白昼夢」

“未来の名探偵諸君へ

本日は私の招待を受けて頂き、感謝する。
ここはインディアン島。2012年を生きる諸君ならば、ここがどこかはご存知だろう。つまりは過去へタイムスリップして頂いた訳だ。
諸君には、今から私が出す知的に参加して貰う。どうかその優秀なる頭脳を披露してくれたまえ。楽しみにしている。
私は宣言する。「十人のインディアン人形」を盗む、と。そして諸君には、この私の盗みを阻止する事が義務づけられる。さあ、私のこの挑戦を見事勝利で飾ることが出来るだろうか?”

こんなU.N.Owen氏からの招待状で始まるの劇団設立15周年&ー名作選上演10年目特別企画「インディアン島の白昼夢」。初日を観劇してきました。

劇団P・T企画は古今東西の名探偵を題材にした観客参加型の芝居を、大阪の各所で積極的に公演をうっておられます。
ウチも過去に火村英生の「英国庭園の謎」ミス・マープルの「秘密のレシピ」をご紹介させていただいていますが、今回はなんと言っても特別版。6人の名探偵+1人の助手が登場する豪華な作品になっています。

フジハラビル

今回の舞台は天神橋1丁目にあるフジハラビル。

こちらのビル、大正時代に建てられたレトロなビルで、いわゆるリノベーション物件だったりするのですが、大阪のレトロビルの中でも、外観、内装ともに非常の興味深いビルです。
個人的には観劇じゃなくても、来てみたいビルなのでそのうちゆっくりとここだけをレビューしよう……と、いうわけで、どんなビルかというのはこちらを→ “不思議な仕掛けがいっぱいのレトロビル「フジハラビル」は、いつ行っても新しくて楽しい☆/kita-ku guruguru”

こんな趣のあるビルの地下1階と4階ギャラリーを利用して、芝居が行われます。

ウチも含めた観客は招待状にも書かれている謎の人物(実はアルセーヌ・ル)に招かれた現代の名探偵……という形。
そして、フジハラビルはインディアン島に立つ館……という設定になります。

インディアン島と言えば、ミステリマニアには分かりすぎるくらい分かりやすいこの作品を思い浮かべる訳ですが。
とワンドリンクをいただいて、会場を見渡していると開演前から、すぐ脇を名探偵が通り過ぎていきます。ウチらも含めてルパンからの”招待客”という扱いなので、ごく自然にいつの間にか舞台世界に入り込まされている感じ。

しばらくすると、招かれていないはずの有栖川有栖が登場し、本格的に物語はスタート。
有栖は火村英生を追ってきて、この館に紛れこんでしまい、6人の名探偵に出会います。
その6人は……シャーロック・ホームズ、エルキュール・ポワロ、ミス・マープル、エラリー・クイーン、明智小五郎、火村英生。
国も時代も違う名探偵の登場にはしゃぐ有栖に、館の執事がルパンから預かったというメッセージと贈り物を手渡し、マザーグースの「10人のインディアンの少年」よろしく1人、また1人と死ぬ見立てになっていきます。

贈り物を贈られた10人の人物のうち、名探偵6人が残された時点でルパンからの挑戦が。
6人の中にルパンがいる、誰か?、と。

……と、言うところで問題編は終了。その後はルパンの執務室だったという4階ギャラリーと、物語の舞台となった地下1階を観客は移動しながら、名探偵にヒントをもらいつつルパンから提示された謎の解決に向けて捜査します。

45分間の捜査時間を終えて、観客は答えをスタッフに手渡すと、その後に解決編が演じられ終演。
残念ながら、今回も名探偵の1人(=アルセーヌ・ルパン)が漏らした証拠になる言葉をとらえきれず惨敗でした。

さて、劇団P・T企画のミステリー名作選。
ウチは好きなのですが、以前から友人・知人にお薦めするのは躊躇う劇団、芝居でした。
と、いうのも、1つの作品が問題編、解決編に分かれていて、基本は会話劇。1つの謎の提示と解決に絞っているので、正直なところ「犯人当てクイズ」の域を超えないと取られてもおかしくないと思っていたのです。
ミステリが好きという友だちがいても、満足してもらえるという自信がありません。

が、が、がっ! 今回の作品は違いました。

  • アルセーヌ・ルパンが名探偵たちに仕掛けた罠
  • 苦悩する名探偵と、ルパンとの対決
  • メタフィクションの中の助手にしてミステリマニアの有栖川有栖の独白

単なるミステリクイズを超えて、オリジナル作品として存分にストーリーが描かれていました。特に有栖川有栖が、名探偵一人一人に投げかける言葉がミステリマニアとしては鳥肌もの!
はじめてP・T企画さんの作品で大満足、これなら6人の名探偵の誰か一人でも好きだっていう人が入れば間違いなく薦められる作品です。

……が、すでに25日までの公演は満席。お薦めしたいのに~。

フジハラビルの窓に仕掛けられた切り絵

推理作家の西村京太郎さんがポワロ、明智、メグレ警部、クイーンVSルパン、怪人二十面相の対決を描いた「名探偵が多すぎる」(←このシリーズも大好き)を思い出しました。
スペシャル版じゃなくても、このくらいの満足感が得られるならば、来年も行きますよ。ミステリマニアな方、ぜひご一緒に。