キャラメルボックス「彼女は雨の音がする」 胸にチクりとくるラブストーリー

彼は波の音がする、彼女は雨の音がする

「彼女は雨の音がする」の脚本の第一校を書いたという真柴あずきさんは男前な女性です。坂口理恵さん、緒方恵美さんとのユニットARMsの公演を4年前に観に行った時にも、この人たちは「魔女」だなんて思ってしまうくらい、なんだか不思議で強烈なイメージを持っています。

その一方で真柴あずきさんが紡ぐストーリーは、涼しさというか、なんというか私自身が持っている乙女な部分……違うなピュアな気持ちにちくっと刺さるような、爽快とは違う心をすっと揺らしてほぐす不思議な魅力に満ちています。

昨日、観劇してきた「彼は波の音がする」と関連する2本目、「彼女は雨の音がする」もそんな物語でした。

ではなくラブストーリー

小説家志望の白浜若菜のもとに、ゴーストライターの仕事が舞い込んでくる。
それは、大企業を経営する浦神信雄という男の自伝だった。
若菜は浦神を知っていた。
若菜の母の元恋人で、結婚の約束をしておきながら、一方的に捨てたのだ。
若菜は浦神の真の姿を暴いてやろうと、その仕事を引き受ける。
ところが、浦神の屋敷へ行ってみると、彼は広大な庭を走り回り、発声練習をしていた。その姿は60代とは思えないほど若々しかった。
浦神は若菜に、俳優になりたいと言った……。

「彼女は雨の音がする」は、白浜若菜を視点にした切ないラブストーリー……だと思う。
「彼は波の音がする」は、天使の不手際で死んでしまった男が、浦神信雄という自分自身と全く違う男の体に入って、それでも必死に自分の思いを伝え、前に進もうとするゴーストストーリー。ところが、「彼女は雨の音がする」はその物語を、ヒロイン視点から描いたもので、物語には見た目上はその死んでしまった男も天使も登場しない。あるのは、浦神信雄という見た目と心の違う男に触れ、惹かれ、「卵の殻を割らなきゃ目玉焼きは食べられない」の言葉の通り一歩踏み出していく物語

主人公の白浜若菜(実川貴美子さん)もそうですが、登場人物の誰もが不器用で、巧くいかない中で、幼なじみ、家族、同僚など互いに思いを通わせて、ほんの少しでも前に進もうとする気持ちが物語のそこらかしこに見られ、そのそれぞれが本当に素敵です。

個人的には幼なじみに思いを寄せて彼女を支えながらも報われない岩代旭(武田航平さん)は、ついつい感情移入しちゃいます。……あ、ウチはあんなに美男子じゃなかった。

なぜ白浜若菜さんが、あれだけ60歳の浦神信雄に惹かれていくのかという点に正直納得しきれない点はあるんですが、その後ろに死んでしまった新宮弘樹を見ているんだろうなと思いながら、そして浦神信雄を継いで役者になる有田信彦に、その魂を見つけている純粋なラブストーリーとして見ることができます。
そして、何よりラストシーンとその一つ手前。ベタなラブストーリーにしちゃわない、それでも新しい一歩で締めるのが本当に大好きです。

どっちから見るのが正解?

浦神信雄を演じるのは「カレ波」では魂(中身)の畑中智行さんですが、「カノ音」では白浜若菜からの見た目どおおりの西川浩幸さん。

天使アルタイル(福澤朗さん)は、白浜若菜目線では見えない訳ですから、この物語に天使は登場しませんが、物語の端々で天使の存在が感じられ、「カレ波」を観劇したあとだと、天使アルタイルの存在が浮かんだ形で観てしまいます。

東京公演でも話題になったという「カレ波」と「カノ音」どちらから観るかですが、個人的には「カレ波」→「カノ音」→「カレ波」で観たいかなぁ……。物語の端々に天使の存在を感じながら「カノ音」を観て、感動できたので。
終演後にロビーで社長の加藤さんにそういう話をしたら、「男性はその順番が多いけど、女性は逆の人が多かった。面白いですね。」とのこと。
なんだか「カレ波」→「カノ音」は単純でしょ? なんだって。そうかぁ。

どちらか一方だけを観るなら、個人的には「カレ波」をと思いましたが、「カノ音」を推す気持ちも分かる気がします。

終演後に畑中智行さんと、実川貴美子さん翌日以降の「もう一本も観たいわ”り”」の販売で立っておられたのですが、行列になっていたので遠くから心の中で「二本とも素敵でした」と念を送って帰路につきました。どちらを先に見るにしろ、今のキャラメルボックスの魅力を写す素敵な作品でした。

公演名 彼女は雨の音がする
公演期間 [東京]2016年7月30日(土)から8月13日(土)
[大阪]2016年8月20日(土)・21日(日)
場所 [東京]サンシャイン劇場
[大阪]サンケイホールブリーゼ
サイト 公演公式ホームページ