もしも、あの時にああしていれば……そんなことを誰しも思うもの。
ドラえもんにしろ、バック・トゥ・ザ・フューチャーにしろタイムマシンやタイムトラベルを元にした作品は、これまでにも数々作られてきました。私もそういう小説が大好きで、このブログでもこんなことを書いていたりします。
それぞれの作品に思い入れがあるのですが、それでも、この作品にウチが出会わなければ……
演劇集団キャラメルボックスの結成30周年の第一弾は十年ぶりに再演の「クロノス」。
この作品は、梶尾真治さんが書かれた短編集「クロノス・ジョウンターの伝説」の最初の作品「吹原和彦の軌跡」を舞台化した作品です。
2005年12月の初演時のことは、今でも忘れられずにいます。当時、ウチはまだ頻繁に観劇に行くという程ではなく、この作品は東京公演の千秋楽を生放送するというCSの番組を録画して、年末の掃除の合間に軽い気持ちで見始めました。梶尾真治さんの作品もその時は読んだことがなかったのですが、1時間を過ぎた辺りでTVの前でかじり付くように映像に見入り、ラストでは初めて演劇の映像で涙を流しました。
うわぁー、なんでこの公演、見に行かなかったんや!
翌年、クロノスシリーズの別の作品が舞台化されると、すぐにチケットを取り見に行って……そして、気がつくとクロノスシリーズやキャラメルボックス作品の虜になってしまっていました。
初演時のDVDを観ながら、早く再演しないかなぁ……と思っていた「クロノス」。ようやく生で観劇することができました。
住島重工の下請け会社であるP・フレックで物質を過去に跳ばす機械「クロノス・ジョウンター」の研究開発に携わっていた吹原和彦は、駅前の花屋で働く蕗来美子に密かに思いを寄せていた。
中学時代に数度話しただけの彼女を思い続けて、偶然の再会から1年間お店に通い続けて、会社のパーティでもらったカエルのブローチと交換にようやくクリスマスイブの約束を取り付ける。クロノス・ジョウンターがカエルを過去に跳ばすことが成功したその日、大きな爆発音が吹原の耳に届いた。窓から外を見ると駅前に炎が挙がっていた。現場に駆けつけた吹原に、来美子が勤める花屋にタンクローリーが突っ込み、彼女は病院に運ばれたという。事故現場に残されたのは半分に溶けたカエルのブローチだった。
来美子の死に呆然とする吹原は、彼女の眠る病室に入ることなく会社へと駆け出す。クロノス・ジョウンターの元へ。
クロノス・ジョウンターが保管されている科幻博物館に忍び込んだ吹原が、館長と学芸員に語り始めるのは、来美子を救う為に過去に跳んだ自身の物語。
クロノス・ジョウンターを使って、事故が起きた時間の45分前に跳んだ吹原は、まだ生きている来美子に事故の事を告げるのですが、当然のことながら来美子は信じません。必至に説得する吹原に、時間を司る神”クロノス”の手が彼を未来に引き戻し……
クロノス・ジョウンターには2つの欠点があります。過去にはわずかな時間しか留まることができないこと、そして、元の時間よりも遙か先の未来にはじき飛ばされてしまうこと。
吹原は最初のジャンプで出発点よりも7か月も未来にはじき飛ばされてしまうのですが……過去に跳ぶ吹原(代役:ダンボー)には、何度も試練が……
妻でも恋人でもない来美子の命を救うために、十分ほどしか留まることのできない過去に遡る吹原の姿は、不器用で不格好でバカなんじゃないかと思います。
それでも、来美子を思う気持ちに、ただ一つ正直な吹原の姿は観ているウチの胸にズンと来ます。気がつけば、吹原の行動の一つ一つに「走れ!」「頑張れ!」と声を掛けたくなってきてしまいます。
ストーリーを知っていても、ラストを知っていても、終盤は涙でグズグズです。
原作である小説版は、短編小説ということもあって、吹原と来美子の関係にフォーカスしていてそれも素敵ですが、舞台版はそれに加えて、クロノス・ジョウンターの開発者である課長の野方、同僚の藤川と津久井、吹原の妹のさちえや来美子の弟の頼人、そして舞台には登場しない吹原の両親までもの物語が描かれるのが本当に素敵です。
原作小説の魅力を全く損なうことなく、吹原の物語の邪魔にもならず、個々の物語も存分に楽しむことができます。
そして、この十年間クロノスシリーズを全5作舞台化してきたこともあって、他の作品とのリンクも磨きが掛かっています。初演を観てるからいいやっていう方は損をしていますよ。ホントに。
前回のクリスマス公演からスタートしたカーテンコールの撮影OKタイム。
今回は、なんとクロノス・ジョウンターの起動シーンを再現。劇中のワンシーンを撮影させていただける(ただし、スマホ、ケータイで静止画のみ)という太っ腹な企画。
演技も照明も音楽もきちんと再現されるので、気合いが入ったのですが、結構空回り。変化する照明と役者さんの動きでぶれたり、明るく写りすぎたり……東京公演行かれる方は、キャラメルボックスの舞台写真をずっと撮られている伊藤和則さんのアドバイスを一読のこと。
でも、お芝居だけでも嬉しいのにこういう企画があると嬉しさ倍増です。
大阪公演は終わってしまいましたが、東京公演は3月6日(金)から。これからどんな反響がくるか楽しみです。
東京公演の前なので、ネタバレはちょっと間を空けて書きますね。観終わってから読んでくださいませ
公演名 | キャラメルボックス30th vol.1「クロノス」 |
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公演期間 | 大阪公演:平成27年2月21日(土)~25日(水) 東京公演:平成27年3月6日(金)~22日(日) |
場所 | 大阪公演:サンケイホールブリーゼ 東京公演:サンシャイン劇場 |
サイト | 公式情報サイト / Twitter / facebook |
ということで、ネタバレの私的な感想
待望の再演だった訳ですが、観に行くまでは結構不安だったんですよね。
特に、吹原役の畑中智行さんと来美子役の實川貴美子さんが。
ヒロインの来美子、初演は岡内美喜子さんが演じていました。憧れのお姉さんといった感じで、ちょっと今回の實川さんとは違うよなぁと思っていたんですが、観終わったときには
初演のクロノスを観てたら、實川さんの来美子はちょっと違うよなぁと思っていたんですが、観終わるころには……「結婚してください」って感じ。 回想シーンの制服姿はもう反則です。心打ち抜かれっぱなし。 #キャラメルボックス pic.twitter.com/PHU022SQNH
— 山中正則(があ)@大阪 (@gar_osaka) 2015, 2月 24
とメロメロに。畑中さんの吹原も初演よりも格好良すぎると思ったのですが、汗だくのスーツを見ているだけでもうのめり込んでしまいました。
初演をくり返し映像で観ていたり、クロノスシリーズを観ていることもあって、他の作品との整合性がきちんと合わせられているのに気付くと楽しくて楽しくて。
馬車道ホテルへの配達相手が「柿沼」さんになっていたり、クロノスのプロテクトパスワードが夏川のはらから「片倉珠貴」に変わっていたりもニヤニヤしちゃったんですが……何より、素晴らしかったのが、3度目のジャンプで吹原が辻堂と圭に行く手を阻まれた時、圭が辻堂に呟く台詞が……
@gar_osaka あ、そうそう。圭ちゃんのあの台詞、彼女ももう「知ってる」んですよね。
— なお (@nanocha) 2015, 2月 25
そう、この時点で圭は「知ってる」んですよ。ちょっと感動しちゃいました。
初演から同じ役を演じている海老名役の坂口理恵さん、中林役の左東広之さんは圧倒的な安定感。吹原の回想に一々ツッコむのが凄く良いタイミングで、観ているこちらの気持ちをグングンと高めてくれるのが凄いです。
野方役の西川さんは、やっぱり台詞の細部がどうしても聞こえづらかったりするのですが、野方はこの人しかいないですよね……
やっぱりもの凄く好きな作品だなぁ……帰ってきて、その晩についつい初演版観ちゃったくらい。
まだ少し余韻が残っています。
以前の公演で販売されていたクロノス・ジョウンターのペーパークラフトを作った(結構、雑なので悔しいけど)のですが、意外とダンボーと合わせると面白かったので最後に何枚か貼ってみます。
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