えー、今回は硬い話になります。自身の仕事(生活保護ケースワーカー)に関する話題ですので、興味のない方は読み飛ばしていただいても良いかと。
先日、生活保護についてこんなニュースが流れました。
- 小野市の「生活保護でギャンブル禁止」条例 「なんて素晴らしい」「監視社会化が進む」の賛否両論 / J-CASTニュース
記事にもあるように、兵庫県小野市で生活保護受給者が保護費をギャンブル等に“浪費すること”を禁じる条例を提出することになったとの内容。
この話題、当然私の職場や同業者でも話題になりまして、facebookやTwitterでも色々な意見があるのを見てきました。
個人的に感じることはあったのですが、条文全文を読まないままで何かというのはおかしいので、ちょっと控えていました。
兵庫県小野市の市議会ホームページに条例案の全文が公開されたようです。
なので、コメントをとfacebook向けに書いてみたのですが、長文になってきたのでブログに雑感としてまとめることにしました。
まずは、条例に賛成だ、反対だ、受給者の権利がとかごちゃごちゃと言う前に条例案を読んでみましょう。
条例の名称を見て分かるように、この条例案は単に「生活保護受給者のギャンブル禁止」のみを意図としたものではありません。
もちろん、いわゆる不正受給を未然に防止するということもありますが、同時に生活保護をはじめとした福祉的な給付制度が、その制度の目的に添った形になるための具体的な運用を示した条例という位置付けだと考えられます。
記事でも取り上げられていますが、特に問題とされているのは、第5条3項。
3 市民及び地域社会の構成員は、受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬、その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持 、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは、速やかに市にその情報を提供するものとする。
第5条は(市民及び地域社会の構成員の責務)とされた部分で、「市民等の責務」として情報提供を促す内容になっています。
「市民等の責務」としてこれを位置付けるのがどうかという部分は、確かに賛否の分かれるところだと思います。ただ、この第5条は第1項で
第5条 市民及び地域社会の構成員は、生活保護制度、児童扶養手当制度その他福祉制度が適正に運用されるよう、市及び関係機関の調査、指導等の業務に積極的に協力するものとする。
と記しており、第3項もここに記した「協力」を促すものと考えます。「協力」であり、「義務」付けるものではありません。
さて、この条例案を全文読んでみて、現役ケースワーカーとしての雑感です。
いちいち前置きしますが、これは一ケースワーカーとしての雑感であり、所属する福祉事務所や大阪市の考えではありません(面倒ですが、この立ち位置を書いておかないと一々ツッコミを入れる方がいるのでお許しください)。
この条例案を読んで最初に思ったことは、“具体的にこれだけで何か変わるもんではないな。”ということ。
実際、生活保護受給者がパチンコ等のギャンブルに生活保護費を浪費しているという情報は、私も良く聞きます。福祉事務所に電話でそういった情報を通報してくる例は1件2件というレベルではありません。
例えばこんな感じです。
「○○に住む△△は、パチンコ(or競馬)ばっかりしている。生活保護もらっているのに、そういうのはけしからん」というもの。
うーん、分かるんですよ。感情的には。
ギャンブルに限らず、生活補助受給者が保護費を浪費して月半ばでお金を借りに来たり、訪問しても家におらず、近くのパチンコ店から出てくるのを見つけてしまうと(かなり抑えめに表現しても)イラっとしてしまいます。
が、今の生活保護の制度では、「ギャンブルをした」というだけで保護を廃止することはできませんし、寧ろ「保護費をギャンブルなどで消費してしまうような使い方しかできない被保護者を、まともになるよう指導するのがケースワーカーの仕事」とまで言われてしまいます。
生活保護法は第1条で「すべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と示されています。
ケースワーカーには、単に「けしからん!」と思うだけじゃなくて、その受給者の「最低限度の生活の保障」と「自立の助長」という目的達成が求められます。
それは保護を停廃止したり、保護費を浪費する人に感情的に怒ったり、罰を与えたりすることでなんとかなるもんじゃありません。
……いや、無理筋やと思います。ホンマに。ケースワーカーに何を無茶言うてるねん、という。
さて実際、この条例案をよく読んで頂ければ分かるかと思いますが、生活保護受給者がギャンブルをすること全面的に禁じるものではありませんし、市民のいわゆる告げ口を奨励するものでもありません。さらに、ギャンブルをしていたから生活保護を停廃止するとか不正受給だと判断するようなことはどこにも書いてありません。また、通報があった場合も、第7条で定められているように実態を把握するように、そして、その調査活動は”犯罪捜査”ではないとはっきりと定めています。
つまり、これは色んな方が騒いでいる「受給者のギャンブル禁止条例」などではなく、また「生活保護受給者の監視強化」なんかでもないと私は考えます。
“被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、向上に努めなければならない。”
生活保護法第60条に書かれていることを、今回の条例案は具体的に書いたに過ぎないと思います。普通に生活している方には当たり前としか思えないでしょうが、生活の維持、向上に努めるために「ギャンブルで生活費を浪費してはいけない」ということです。
そして、実際にそういうことに浪費するような受給者がいた時に、行政、ケースワーカーは何をするのか、生活保護費の原資を納める納税者である市民は何ができるか(協力できるか)ということをきちんと位置付けようという条例案だと考えます。
この条例が可決されたからといって、具体的に小野市の保護体制が大きく変わるということはないでしょう。
ですが、受給者が、ケースワーカーや行政が、そして市民が生活保護って何やとお互いに考えるべき理念を示すという意味で、意義がある条例案ではないでしょうか。
コメントを書く