中山七里「さよならドビュッシー」

さよならドビュッシー

ピアニストを目指す遙、16歳。両親や祖父、帰国子女の従姉妹などに囲まれた幸福な彼女の人生は、ある日突然終わりを迎える。祖父と従姉妹とともに火事に巻き込まれ、ただ一人生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負ってしまったのだ。それでも彼女は逆境に負けずピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する……。

2010年の第8回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作品

ピアニストを目指す恵に襲いかかる不穏な火事。
なんとか生き残ったものの、彼女を狙う何者かの影がつきまとう。
そんなミステリらしい骨格が見えるものの、物語の多くは火事で大怪我をおった恵と、彼女を助ける若きピアニストとの爽やかな音楽小説。
ピアノを弾くことの喜びや、演奏する曲から伝えられる思いが溢れ、ピアノを弾いたことのないウチでもついついのめり込んでしまいそうな物語になっています。

マンガの「のだめカンタービレ」を初めて読んだ時のような新鮮な知識欲と面白さに釣られて、ライバルの登場や怪我を負った体でコンクールに挑む過程なを楽しんでいくと…………

そうやった、これはミステリやった!

やられましたね……。恵への殺人未遂や母親の死など物語の要所要所で事件は起こっているのですが、事件なんかどうでも良いくらいの感覚で、ミステリで火事と言えばこのトリックというものがあって気づいてもおかしく無かったのですが、最後の最後まで全く気にならずにとことんまで騙されて気持ちよく読み終えることができました。タイトルの「さよならドビュッシー」も、いい言葉として余韻を持って物語を閉じています。

素敵なミステリ作品でした。