- 2017年9月16日
ムーンビームマシン「月雪の娘」見どころ満載、華やかな和風ファンタジー
今年はあまり観劇できていないなぁと思っていた所、Facebook友だちが出演される舞台を観に行く機会に恵まれました。 ム……
まぁ、なんていうか。あらゆる物語のテーマは結局愛だよね
待ってました。本当に待ってました。
一昨年に東京のみで公演があり、大阪でビデオライブが上映されたとき……ではなく、この作品が舞台化されるとプレスリリースされたときから。
今や直木賞作家となった辻村深月さんが記した夢を現実にしようとあがくクリエイターの群像劇であり、良質のミステリ「スロウハイツの神様」。
一昨年の夏、キャラメルボックスが舞台化しましたが、関西での公演はなし。今回、初めて大阪での公演となりました。
10年前、福島県で集団自殺事件が発生し、15人が死亡。首謀者の部屋には、小説家チヨダ・コーキの書籍と関連グッズが溢れていた。コーキはインタビューで「責任を感じますか?」と聞かれ、「僕が書いたものが、そこまでその人に影響を与えたことを、ある意味では光栄に思います」と答えてしまう……。10年後、脚本家の赤羽環は、知り合いの老人から元・旅館の建物を譲り受け、アパートに改造。「スロウハイツ」と名付けて、友人たち5人と暮らし始める。その中には、チヨダ・コーキの姿もあった。そこへ新たな住人として、小説家志望の加々美莉々亜がやってくる。莉々亜はコーキの大ファンで、彼の部屋に入り浸り始める……。
原作小説は上下巻の長編作。
舞台化にあたってはスロウハイツの元住人であるエンヤ(円屋)や環と付き合うことになる拝島(彼は住民ではありませんが)のエピソードがカットされているものの、原作の読者にとって文句のつけようのないほど、大切なシーンや言葉が舞台上で紡がれます。このあたりは数々の小説などを舞台化してきた脚本家・成井豊さんの真骨頂というところ。
原作者の辻村深月さんは元々キャラメルボックスのサポーター(ファン)で、キャラメルボックスの作品から大きな影響を受けたといいます。そんな『相思相愛の舞台化』がうまくいかない訳がありません。
小説と一番異なるのは、物語の語り手を原作ではほとんど描かれていない環の祖母・滋子に設定していること。ベテランの石川寛美さんが物語の骨格になる環の育ってきた環境、チヨダ・コーキが原因になった10年前の事件について丁寧に紹介します。
キャラメルボックスのお芝居ではこういう語り手がよく登場するのですが、スロウハイツの住民ではなく、この滋子にしているのは秀逸。物語の登場人物からつかず離れずの距離感で、孫である環や桃花に注ぐ視線の優しさがあふれています。
舞台化、映像化で難しいのは、登場人物の細部に至る再現度。
この作品では、著者の辻村深月さんがお墨付きを与えているほどに、全ての登場人物が実に生き生きと舞台上に存在しています。
初演時のPVでやられてしまった原田樹里さんが演じる主人公・赤羽環。
自分自身の弱さを向き合いながら、他人に厳しく、自分自身にもっと厳しい、とっつきにくく、とにかく格好いい女性です。
小説を最初に読んだとき、「嫌いやわぁ、このひと」と思いながら、めっちゃ憧れて大好きだった環が本当に目の前で生きているようでした。シーン、シーンごとに感情を爆発させることが多いのですが、黙っていたり、抑えているときの目がすごい。
スロウハイツの住民にとっての手塚治虫、チヨダ・コーキ。
小説を書くことが好きで、人付き合いが圧倒的に苦手な天才。大内厚雄さんが演じるコーキは大人でありながら幼く、不器用すぎる、おかしな魅力がありました。初演のDVDで見ているよりも存在感が本当にすごい。
客演の3人。柿食う客の玉置玲央さんが演じるうかつな漫画家の卵・加納壮太、StudioLifeの松村泰一郎さんが演じるイイ男の映画監督の卵・長野正義の二人の関係性も素敵。それぞれ違う分野でまだ芽が出ていないクリエイターの一所懸命さと他人に対する違う優しさが見えてきます。
チヨダ・コーキを育てた敏腕編集者・黒木智志を演じているのが*pnish*の森山栄治さん。原作同様のチヨダ・コーキに寄り添いながら、売ることに全力を注ぐ「ゲス野郎」っぷりがかっこ良すぎ。
もちろん、もう一人の住民、けなげで可愛いスーこと森永すみれを演じる小林春世さんや、環とは違う強さをもった妹の桃花の石森美咲さん、環の母親・永久子や実は重要人物のカメラマン・芦沢光など4役を演じる岡田さつきさん、初演から唯一のキャスト変更の島野知也さんも含め、全ての登場人物が愛おしいです。
原作の最終章「二十代の千代田公輝は死にたかった」で展開されるチヨダ・コーキの回想シーンは強烈なカタルシスをもたらします。ページを読み進める手が止められないあの感覚が、この舞台を見ると前のめりになって、息をつく暇もないほど目を見開いて、そしてキャラメルボックスらしい泣き笑いに追い込まれてしまいます。
エピローグも含めて2時間ちょっと。
何かを創り上げるクリエイターの人も、クリエイターになりたかった人も、何ができるか分からなくてもやもやしている人も、心にグサグサと刺さるかもしれませんがそれ以上に元気になれる舞台です。
明日が千秋楽。選挙の投票を終えたら、ぜひサンケイホールブリーゼに。
さ、小説をもう一回読もうかな……
公演名 | キャラメルボックス2019スプリングツアー「スロウハイツの神様」 |
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公演期間 | [東京]2019年3月22日(金)~31日(日) [大阪]2019年4月5日(金)~7日(日) |
場所 | [東京]サンシャイン劇場 [大阪]サンケイホールブリーゼ |
サイト | 公式サイト(公演情報) |
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