50歳を前にしたおじさんがチラムネ沼にはまったからどうしたって話

あるラノベの話をしようと思う。
ラノベとはライトノベルの略で…… 最初なので雑な説明を入れたけど、今回は読者置いてけぼりの可能性大だけど、書きたい気持ち最優先で。

「チラムネ」こと『千歳くんはラムネ瓶のなか』という作品を知ったのは、まあ、偶然だけど必然ともいえるかも。

今年の「地方公務員アワード」で、私と同じ受賞者として福井市の出蔵健至さんに出会いました。 出蔵さんは作品と福井のコラボを「中の人」として支える公務員の一人。授賞式当日、中の人としてチラムネ×福井の聖地巡礼マップをいただきました。

「まあ、1巻だけでも読んでみるか」

受賞者仲間の仕事を知ってみたいってのもあったんですが、何より出蔵さんの「チラムネ、福井が好きだぁ」って熱量にあてられたのが、ひっさしぶりにラノベを読もうと思った一番の理由。

で……

五十手前のおじさんを沼にハメるんじゃねぇ、ごらぁっ!!!!

そんなこんなで、沼にハマった者の使命として、しっかりとこれを読む同業者を含むおじさんたちも沼に沈めたいと思います。ズブズブズブ……

チラムネは若者への激しい応援だ

『千歳くんはラムネ瓶のなか』は、福井県の進学校「藤志(ふじ)高校」に通う超絶リア充、通称「ヤリチン糞野郎」千歳朔を中心に、彼に好意を寄せる5人のヒロインとの関係を描く青春モノ。
『第13回小学館ライトノベル大賞』の優秀賞受賞作、2021年、2022年の「このライトノベルがすごい!」文庫部門1位と大人気の作品です。

ラブコメって書いてるとこもあるけど、個人的にはいやコメディやないやろと思うなぁ。
王道(ってあるかどうかは分からんが)の青春物、ラブストーリー。

5人のヒロインは、誰からも好かれる姫の柊夕湖、包み込むような優しさの内田優空、がさつなように見えて乙女なスポーツ少女の青海陽、美貌もスポーツも女優系万能型の七瀬悠月、そして憧れの先輩・西野明日風と、綺麗にオールジャンル揃っていて、しかも2巻から5巻にかけて一人一人の可愛さをこれでもかと、読んでいて苦しくなるくらい心の内面まで描くので、きっと推しが見つかるはず。

私の推しは陽さんです。(私の10代、20代を知ってる人は「ですよねぇ」って言うと思う)

“美少女ゲームのプロローグや共通ルートを飛ばしていきなりヒロインの個別ルートが見たい”
なんて著者は言っていて、ヒロインそれぞれのストーリーをぜいたくに描いているけど、それよりもこの作品の肝は、ラノベらしい理想、妄想の中の現実感かなぁ。ヒロインの脇に隠れているようで、しっかりと登場人物それぞれが、福井で今この瞬間に生きてるって感じられる。非リア充だった健太とのやり取りを描いた1巻だけじゃなくて、海人や和希、なんなら夕湖のお母さんに明日風のお父さん、陽の先輩らに本屋『HOSHIDO』のお兄さんですらも、こんなことを考えていて、こんなことに悩んでいて、こんなことが好きだぁと叫んでいる。

丁度、中高生の頃にこれを読んでいたら、心を全部持って行かれそうなくらいグサッと刺さったんだろうなぁ。朔やヒロインの5人じゃない人やちょっとしたエピソードで、自身の感情や考え方が揺さぶられて、これからの自分が変わっちゃうかもしんない。
今、リアルに中高生の人たちがこの作品を読んだときの気持ち聞いてみたい。

ラノベに心揺さぶられるおじさん語り

子どもが生まれて父親になった辺りを境にラノベを買わなくなりました。

ラノベの発祥は諸説あるけれども、角川スニーカー文庫と富士見ファンタジア文庫の創刊時に高校生で、参考書を買うお金を親からちょろまかして毎月何冊も買っていて、10代はラノベ(当時はラノベとは言うてなかったけど)が栄養分でした。

富士見ファンタジア文庫の創刊時の神坂一さん『スレイヤーズ』、小林めぐみさん『まさかな』から、上遠野浩平さん『ブギーポップは笑わない』辺りまでは現役。

私が大好きな辻本深月さんの『スロウハイツの神様』で、登場人物の人気作家チヨダ・コーキの作品について「チヨダ・コーキはいつか抜ける」、多感な思春期にハマり年を重ねるとスッと抜けるように過ぎてしまうと言われたように、私もラノベからは抜けてしまったのでした。

いや、でも娘が成長するに従って、彼女が好きなラノベを聞いてみたり、転スラやリゼロのように漫画になったりアニメになったりしたものは見ていたんですよ。それでも、10代、20代の頃に読んでいた頃のように、頭の中ぐるんぐるんとなるほどハマることはなかった。

あぁ、抜けてしまってるもんな。

……が、がっ!

1巻を読み終えて、2巻は翌日……と思ってたくせに10分後には2巻を読み始め、友だちと久しぶりに飲んだ帰りの地下鉄で読んだら見事に降りる駅を2駅も過ごして、キリの良いところまでと思ってたら朝の4時まで読んでたり。

そうだよなぁ17歳にとって1歳上の先輩ってそういう憧れあるよねと明日姉と、自分にとっての先輩への憧れを重ねてみたり(FBでその先輩と繋がってるけど、万が一気付いても華麗にスルーして欲しい)

推しの陽さんは、間違いなく自身があの頃好きだった子に重ねていたり(こちらもFBでは繋がってないけど……以下同文)

「キモっ!」って思う人がいても、そういうのはもう20年以上前に乗り越えているんで問題なし。チラムネを読んで、何より良かったなぁと思うのは、

あぁ、俺抜けてないんや。この歳になっても、ちゃんと感じられるんや。

と思えたこと。いやぁ、チラムネ、いいよね。

スゴい公務員と聖地巡礼なうらやましさ

アニメや漫画、そしてラノベなど、物語で描かれる舞台を訪ねる聖地巡礼。
これの発祥はゆうきまさみさんの『究極超人あ~る』だなんて言われています。なんと、石碑まであったりします

公務員アワードで中の人こと出蔵さんに出会って、チラムネを知りました。

全力でチラムネを推している中に、「福井が好き」だったりがこぼれ落ちていて、観光や広報といった仕事に携わりたいと思いながらずっと仕事をしている私には出蔵さんはまぶしくて、うらやましくて。

観光の素材として「聖地巡礼」を絡ませる手法は、今では邪道ではなくなってきています。
それでも、それを「コラボ」の一言ですませるのではなく、『千歳くんはラムネ瓶のなか』という作品を、そして千歳や彼らの仲間が暮らす福井を、もっと知って欲しい、好きになって欲しいという思い、熱量がずっと続いているのを見ていると、こういう仕事をしてみたいなぁと本気で思います。

私が公認ライターとして活動している『ニッポンごはん旅』で、福井を取り上げるネタになればなんて思っていましたが、今はもっとチラムネや福井を推せないかなぁと。
ねぇ、出蔵さん。にわかで、しかも福井じゃなくて大阪に住んでるけど、私もチラムネや福井を応援する仲間に入れてくれないかな。

「かーしこまりー」なんて答えてくれると嬉しいな。