キャラメルボックス『クロノス・フェスティバル2023』クロノスの世界が深まる、深まる

キャラメルボックス『クロノス・フェスティバル2023』クロノスの世界が深まる、深まる

活動再開から3年目になる演劇集団キャラメルボックス。
堅実に再生の道を歩もうとしている同劇団なので、活動は東京が中心。昨年、一昨年は年末の本公演のみでしたが、今回は関西のホームグラウンドとも言えるAiiA 2.5 Theater Kobe(かつての新神戸オリエンタル劇場)にやってきました。

演目は梶尾真治さん原作のクロノスシリーズから2作品。 昨年の『クロノス』に続いてのシリーズ作品ですが、1本はほぼリメイク、もう1本は昨年原作が発売されたばかりの新作ということでたっぷりと楽しみました。

帰宅後、原作を読み返すと、舞台版オリジナルの設定などがあって考察が楽しくて楽しくて。そんなことを考えつつ改めて感想を書いてみます。

登場人物の輪郭がより鮮明になった『あした あなた あいたい』

『あした あなた あいたい』(原作は『クロノス・ジョウンターの伝説』に収録されている『布川輝良の軌跡』)は、2007年以来の再演。

物質を過去に飛ばす機械「クロノス・ジョウンター」。
P・フレックの開発2課に勤める布川輝良(ぬのかわあきら)は、3課の課長の野方耕市から、実験への参加を持ちかけられる。
3課が開発中の「クロノス・ジョウンター」に乗って、過去へ行かないかと言うのだ。
布川は承諾し、5年前の鎌倉市に行きたいと告げる。
5年前に取り壊された、鎌倉さざなみホテルの写真を撮りに行きたいと。
それは、布川が幼い頃に亡くなった祖父・廣妻隆一郎の設計したホテルだった。
クロノス・ジョウンターで5年前の鎌倉に到着した布川は、そこで枢月圭(すうげつけい)という女性と出会った‥‥。

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初演はキャラメルボックスのお家芸、上演時間60分のハーフタイムシアターでしたが今回は120分の作品です。

「失われた建物の写真を撮りに行く」という原作を読んだ時には少しピンとこなかった布川の動機が掘り下げられただけでなく、舞台化されていない作品の要素を取り入れて、家族との関係性やクロノス・ジョウンターに搭乗するまでも描かれています。

特に布川と母親の関係は、タイムマシン「クロノス・ジョウンター」の致命的な欠陥があるがための取り返すことのできない時間の切なさをサイドストーリーとして見事に映し出しています

ヒロインの枢月圭を巡る家族や友人たちとの関係性など、原作、初演以上に人間くさく、感情を揺さぶるものになっていて、輪郭がくっきりとした良作でした。

クロノスシリーズの読者へのご褒美『クロノス・ビギンズ』

P・フレックの開発1課に勤める仁科克男は、レストラン「海賊亭」の常連客。
ある日、店主の平塚保造から、大学時代に映画研究会の仲間たちと撮った映画を見せられる。
仁科はその映画のヒロインを演じていた清水杏子に一目惚れしてしまう。
しかし、平塚の話によると、杏子はこの映画の撮影が終わった直後、交通事故で亡くなったと言う。
仁科は開発3課で開発中の「クロノス・ジョウンター」で、32年前に手紙を飛ばす。
この手紙を読んだ人は、清水杏子さんを救ってほしいと。
32年前、大学4年の青井秋星は、宙から舞い降りてきた不思議な手紙を手に入れた‥‥。

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『クロノス・ビギンズ』は昨年(2022年)に出版されたばかりのクロノスシリーズの新作『クロノス・ジョウンターの黎明』の舞台化作品。

仁科が目を奪われた映像の中の女性・清水杏子は32年前に交通事故で命を失っていた。杏子を救うために仁科は、クロノス・ジョウンターで過去に手紙を送る。

「時を超える手紙」は舞台でも韓国映画『イルマーレ』が言及されていましたが、ジャック・フィニイの『愛の手紙』やキャラメルボックスでも舞台化した『ナミヤ雑貨店の奇蹟』と名作揃い。

『クロノス・ビギンズ』では、仁科によってクロノス・ジョウンターで送られた手紙を受け取った青井が杏子を救うために奮闘するストーリーが描かれます。

現在と32年前で、主人公が仁科と青井に入れ替わるというギミックの面白さだけではなく、クロノス・ジョウンター開発前夜が描かれるなど、これまでのクロノスシリーズを知る者にとってはご褒美のような作品です。

しかも、キャラメルボックスのサポーターにとっては、劇中で撮影されている劇中劇がキャラメルボックスの作品『TWO』といった隠されたご褒美があったりもして楽しさも倍増でした。

『あした あなた あいたい』に出演されているキャストが、そのままこちらにも出演されているので、野方を演じた大内厚雄さん以外は全員が全く別の役を演じているので、興味深かったです。

一課の課長役を演じた森めぐみさんは、『あした あなた あいたい』のヒロイン・枢月圭とは全く違うクセの強いキャリアウーマンが素敵すぎました。 清水杏子を演じた原田樹里さんは、蕗来美子もそうですが本当に圧倒的なヒロインで観ているとずっと目がハートになっちゃいそうで困ります。 多田直人さんの所作の美しさ、死神博士で出演者全員を演技できないくらいにさせる阿部丈二さん、出演するだけでその場を染めてしまう筒井俊作さん……もう一つ一つ挙げていくと止まらなくなる位、皆素敵でした。 あ、初舞台の田中のぶとさんの吉本課長も凄かったです。なに、あの安定感。

細々としたクロノスシリーズ考察

原作のクロノスシリーズはクロノス・ジョウンター開発の中心人物である開発2課課長の野方耕市を除いて、それぞれの作品に登場する人物がリンクすることはありません。

一方で、キャラメルボックスの舞台版のクロノスシリーズは、野方だけでなく個々の作品での登場人物が結構密接にリンクしています。

『あした あなた あいたい』のヒロイン・枢月圭は、舞台版では『クロノス』のヒロイン・蕗来美子が勤めている花屋「シックブーケ」でアルバイトをしています。

そのため『クロノス』の再演のとき、枢月圭を演じる森めぐみさんの演技は、吹原がクロノス・ジョウンターで過去に跳んできていることを「知っている」ので、吹原を見て気遣う原作では描かれていない圭で、その演技を見た時、私は本当にぞくぞくしました

そして、『あした あなた あいたい』で、圭を未来に送ることになるのは、吹原に救われた『クロノス』のヒロイン・蕗来美子だったりします。

他にも、何度も過去に跳ぶ吹原が衰弱して運ばれる病院は、『ミス・ダンデライオン』(原作は「鈴谷樹里の軌跡」)の鈴谷が勤める病院だったり、『きみがいた時間 ぼくの行く時間』の主人公・秋谷里志にとって大切な場所になった「馬車道ホテル」は、舞台版のクロノスシリーズでは何度も登場します。

さて、舞台版クロノスシリーズ、そんな色々とリンクはあるのですが、じゃあ同じ世界線で描かれているかというとそうでないというのがまた面白かったりします。

メインになるのは『クロノス』で描かれている吹原和彦の世界線です。

以前、それをガッツリと考察したのですが、今回の観劇で「あれ? もっと世界線が分かれていないか?」と改めて思った次第。

前回は蕗来美子が亡くなった世界線Aから、救われた世界線Bに分かれ、他の舞台版のクロノスシリーズは世界線Bの物語だという考察をしていました。

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『あした あなた あいたい』は、吹原によって来美子が救われた(そして、その世界線の吹原は過去に跳ぶ必要がない)世界線Bの物語ということは変わりありません。

しかし、『クロノス・ビギンズ』の主人公の一人・仁科が最後に跳ばされた未来で会う野方の生きる世界では吹原が5回目に過去に跳ぶ前の世界になっているので、来美子が救われていない世界線Aの物語ということになります。

そうなると、『南十字星駅で』(原作は『野方耕市の軌跡』)も同じ世界線Aでの物語になります。

さて、問題は『クロノス・ビギンズ』のもう一人の主人公・青井が最後に行き着いた世界線はどこなのかということ。清水杏子が救われた世界でありながら、仁科が跳んだ未来とは違う世界線に移っています。原作では「第3の時間軸」と書かれていますが、その世界で青井は、杏子は、仁科は、野方はどのような関係性になっているのでしょう。

今まで、舞台版のクロノス・シリーズは『クロノス』の吹原の世界線・時間軸の中で描かれていると思っていました。蕗来美子は死んでいるけれども吹原が救おうとしている途中経過の世界線Aと、蕗来美子が救われて歴史が改編された世界線Bという一つの流れの中で、その他の物語が描かれていると思っていたのですが。

今回の『クロノス・ビギンズ』を観ていると、実は物語ごとにいくつもの世界線に分かれているんじゃないかと感じさせられました。

青井が最後に跳んだ未来は原作でも舞台でも描かれていませんが、今までの考察での世界線A、B上にはないところにありそうです。

原作の梶尾真治さん、そして舞台版の脚本を書いた成井豊さんの頭の中では、クロノス・シリーズの世界線はどうなっているのでしょうか。色々とさらに妄想・考察したくなりますね。

原作小説は何度も読み返せるのですが、舞台作品はそうもいかないのがなかなか悔しいなぁ。シリーズ全作品、まとめて観たくなります。なんとかならないですかね……

さて次回、関西でキャラメルボックスを観られるのは冬。次は大阪で観られるのが楽しみでなりません。

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があ

大阪生まれ・育ち・勤めの雑食系公務員。 福祉職だと勘違いしている人が大多数ですが下っ端事務職。濃い顔付きから沖縄人やらトルコ人やら間違える人大多数。違う、違うんだよ~

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