すゞひ企画『ある冴えない男の人生最悪の選択』オンラインだからできる「演劇×体験型ミステリー」

すゞひ企画『ある冴えない男の人生最悪の選択』オンラインだからできる「演劇×体験型ミステリー」

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「演劇×体験型ミステリー」という私の趣味嗜好のど真ん中をバチコーーーンと射貫く公演をされているすゞひ企画。

前回、2月に東京、名古屋、大阪で上演された「9月31日の花嫁」に参加したのですが、とにかく面白い。リアル脱出ゲームのような「謎解き」が好きな人も、リアルなお芝居が好きな人も、そしてミステリー好きにもおすすめできるイベントなんて他には見当たりません。

そんなすゞひ企画さんですが、やはり新型コロナウイルスの影響で5月のGWに向けて用意していた公演が中止に。

長引くコロナ禍の対応に、オンラインで楽しむ演劇、謎解きゲームなども出ては来ましたが、すゞひ企画のキモはやはり「体験型」であるということ。会場で味わう濃密な「体験」はオンラインでは難しいのではと思っていました。

ところが、主宰の鈴木さん自身が、

僕はオンラインが嫌いです。
なぜなら僕は圧倒的に「リアル」が好きだからです。
「オンライン飲み会」「オンラインゲーム」「オンライン勤務」などなどありますが、絶対にリアルの方が楽しいよねって思っちゃうのです。
それに人間関係だって、リアルでさえなかなか伝わらないことが多いのに、パソコンやスマホなどのフィルターを通してしまうと、
人間の気持ちなんか1%も伝わらないんじゃないかなと思うのです。
「ある冴えない男の人生最悪の選択」ホームページより

オンライン大っ嫌い宣言をしておきながら、全編オンラインの「演劇×体験型ミステリー」を作り上げました。これは体験せねばっ! とチケットを取りました(でも、初演はチケット瞬殺で取れなかった……)

この公演は、『完全ネタバレ禁止』です
そのため、この記事は「あれ」とか「それ」とか、曖昧な表現が多くて、「があさん、なんかライティング能力幼児化してない?」と思うかもしれませんが、そうじゃないんだと言い訳させてください。

オンラインだからできること、オンラインだからできないこと

浅間八枝、浜北空斗、桂木無門、辻蓮太郎の四人は同じ大学の元同級生だ。

四人はいつも一緒だった。
卒業後もその付き合いは絶えることがなく、
何かにつけてはこの四人で集まることが決まり事のようになっていた。

そして五年前。
浅間が婚約中だった彼氏と別れたことをきっかけに、
浅間と浜北は結婚を前提に付き合い始めるようになった。
二人の行き着いた先を知った桂木と辻は、涙を流しながら喜んだという。

そんな折、浅間が妊娠した。
今日は、そんな浅間の懐妊を祝うのための「オンライン飲み会」が催されることになっていた。
しかも、普通の「オンライン飲み会」ではなく“対談式”という形式で進んでいくとのことだ。

あなたはその飲み会に招待された一人。久方ぶりに四人に会えることを楽しみにしていた。

しかし、その飲み会の最中に、ある大事件が勃発する。
××××が遺体となって発見されたのだ。

これは、自殺なのか?他殺なのか?
全く状況が読めない中、事態は急速に最悪な方向へ進んでいく。
さらに、あることをきっかけにあなたは事件の捜査をすることに……

果たして、あなたは事件を解決し、真相にたどり着くことができるのか。

いま、最も参加したくない飲み会がスタートする

「ある冴えない男の人生最悪の選択」ホームページより

物語は、ZOOMで開催された「オンライン飲み会」に参加することから始まります。
そこでは私も含めた参加者は、浅間八枝、浜北空斗、桂木無門、辻蓮太郎の大学時代の同級生。画面越しとは言え、久しぶりに会う同級生との会話が弾みます。

ところが、いつまで経っても会場に現れない一人が遺体として発見され、参加者は巻き込まれる形で捜査に参加することに。

すゞひ企画の「演劇×体験型ミステリー」は、事件編→捜査→回答提出→解決編という流れで進みます。
事件編、解決編は実際に俳優がその場で演じ、捜査では参加者が聞き込みや証拠集めに奔走します。

今回、事件編120分の前半は事件が発生するまでのオンライン飲み会での出来事が演じられました。
オンライン飲み会ということもあり、登場人物はカメラに顔を近づけたり、フレームアウトしたり、声が大きかったり小さかったりなんてこともありますが、この臨場感はオンラインでない会場と遜色ありません

人によっては、リアルな会場よりも推しの俳優さんの演技を大画面で観られるからイイっ、って話も。なるほど確かに。

事件編の後半では、事件が発生した後の捜査パートに。リアルな会場では、登場人物である俳優さんに聞き込みをしたり、事件現場に残された証拠を確認したりするのですが、今回は登場人物に参加者が「ここを調べて欲しい」という依頼を実際にしてそれを映像越しに確認したり、登場人物に直接質問したりする時間になります。

ここで事件編の120分は終了。リアルな会場であれば、その場で回答提出となるのですが、今回は事件編で収集した証拠などを確認しながら、開演時間の48時間後を締切りに、それぞれが捜査報告書(回答)を提出します。

そして、全ての回答が締め切られた翌日、回答編の90分が演じられ、物語は幕を下ろします。

……うん、最高

オンラインだからできること、オンラインだからできないこと、はっきりとした公演ですが、「演劇×体験型ミステリー」という魅力は全くそがれていないと感じました。

  • 物語への没入感が素晴らしい
    事件編120分、解決編90分。リアルな会場では回答作成の30分が入りますが、ほぼほぼ同じボリュームにもかかわらず、オンライン版の今回の方が物語にのめり込む度合いが深かったように思えます。
    当初、事件編120分で全ての証拠や捜査を終えると思っていたんですが、実際は事件編が終わって、捜査報告書を提出するまでの2日間が「捜査時間」でした。その2日間、現実世界で暮らしながら、物語の世界で捜査を続けている感じが続いている。物語好きにはこんな幸せはありません。
  • 捜査が楽しい
    事件編の後半では、事件現場の捜索、登場人物(=容疑者)への質問タイムが設けられています。
    リアルな会場では、参加者が登場人物を演じる俳優さんの前に列をなして順に尋ねるという形式で、個人的にはその風景に結構興ざめしていた(でも、その方法しかないよねと思っていた)んですが、今回は事件編1回あたりの参加者数が限られているので、その回の参加者全員に質問・回答は共有されるものの、聞きたいこと、調べたいところを調べることができます
    あと、オンラインなので質問をする際には、俳優さんから参加者を指名するのですが、「○○」(同級生設定なので呼び捨て)と声をかけてもらえるのは、結構気分が高揚します
  • オンラインだからこその仕掛けがうまい
    リアルな会場の場合、捜査できる範囲は基本的に会場内。閉鎖空間でのミステリー劇になってしまいますが、オンラインになると捜査の範囲は一気に広がります。
    事件編当日に必要な持ち物に「LINEが使える端末」とあったので、どう使うのかなと思っていたら「なるほど~」と思わせる仕掛けでした。
    おかげで「ポートピア連続殺人事件」や「オホーツクに消ゆ」のような古典ミステリゲームをやっているような楽しさと、欲しい情報にたどり着けないもどかしさを感じることができました
    その一方で、リアルな会場であれば「これはできる。これはできない。」ということがある程度明示できていますが、今回の形式だとどこまで現実にやっていいのか分からないという点がちょっと難点ですね。
    ある証拠から、事件に迫ろうと色々と調べてみたんですが、まさかその○○○○に本当に○○して良いとは思わなかったので、一つの証拠にたどり着くことができませんでした。
    このあたりはどこまで提示するかはすごく難しいよね。
  • 単純に参加できることが嬉しい
    シンプルに、日本のどこにいても参加できるというのが嬉しい。
    すゞひ企画は普段、東京で公演をやっておられるので、リアルな会場に参加するには距離と時間とお金という3つの大きな壁がある訳です。オンライン開催だからこそ、参加できる人がいて、すゞひ企画を知る、体験できる機会が増えるというのはやっぱり良いなと思います。

もちろん、リアルな会場だと俳優さんの息づかいや細やかな部分も含めての演技を体験できる訳で、演劇好きに謎解きの面白さを、謎解き好きに演劇の面白さを知ってもらう、本当に「スゴい」体験になるコンテンツなんですが、このオンライン版ではその体験を違う方向から味わうことができるんじゃないかと思います。

オンライン版も、可能であれば今後も続けて欲しいなぁ……

ネタバレ禁止なので、内容には公式に発表されている以上の情報はほとんどなく、ここの出演者のここが良かったとかいうのも詳しく書けないのが本当に残念ですが、

キャラメルボックスで何度も観ていた関根翔太さんや木村玲衣さんの演技を画面越しでも楽しめました(木村玲衣さんの可愛さ爆発ですわ)。

近藤利紘さんは、「9月31日の花嫁」で観たときの印象が強烈で、まさかこんなにも素敵な演技をされる俳優さんだとは思ってなかったので、ぐっときました。

そして、鈴木秀明さんのストーリーテリング、企画力、そして実行力は尊敬します。この「演劇×体験型ミステリー」が今後も続いて、観劇が好きな人、リアル脱出ゲームやマーダーミステリーのような謎解きが好きな人、ミステリー好きな人がどんどんとお互いに浸食しあって「楽しい」を広げていけたら最高ですね。

あーーー、楽しかった。

があ
ちなみに、推理結果は300満点中、186点……かなりポンコツ探偵でした。
公演名 すゞひ企画 演劇×体験型ミステリーONLINE「ある冴えない男の人生最悪の選択」
 公演期間 事件編2020.8.7(金)~12(水) 解決編2020.8.15(土)
 会場 ZOOMを使用したオンライン開催

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があ

大阪生まれ・育ち・勤めの雑食系公務員。 福祉職だと勘違いしている人が大多数ですが下っ端事務職。濃い顔付きから沖縄人やらトルコ人やら間違える人大多数。違う、違うんだよ~

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