- 2017年11月26日
GEAR 上演回数2,000回突破、京都発の最高のエンターテインメント
2012年より足かけ6年目、上映回数は2,000回超え、100名以下の小劇場としては脅威の来場者数15万人突破と信じられ……
人狼ザ・ライブプレイングしたアター(人狼TLPT)は、パーティゲーム「人狼」を利用したアドリブ舞台。
13人の出演者が、それぞれの世界観の中で、それぞれの職業や役割を演じながら、“ガチで”人狼ゲームを行います。
逆に言えば、「それだけ」です。演じることを仕事にした俳優たちが舞台上で人狼ゲームをする。そういう舞台です。
一昨年夏に、大阪で公演があり、娘の友だちにすすめられて観に行ってからガッツリとハマり、今は公演情報を常にチェックしています。東京での公演が主なので、直接は観に行くことはなかなかハードルが高いのですが、アドリブ舞台ということもあって、各公演とも数回はニコニコ生放送で有料放送を行っているので、公演ごとに出演者を見て面白そうなステージを選んで観ていました。
アドリブ芝居な訳で、ハマっていながらも実は「なんで自分がこんなにハマっているか」分からなかったのですが、年末年始の2公演を続けて観て、なんとなくそれが分かったような気がします。このお芝居「可能性しかない」んです。
スポットライトに照らされた13人は、きらびやかな衣装に身を包んでいた。
ロック、アイドル、ヒップホップ、ヘヴィメタル、アニソン、演歌、etc。
音楽祭もかくやの華やかさだが、“そうそうたる顔ぶれ”には程遠く、全員の名前を知っているオーディエンスは誰ひとりとしていない。彼らはひたむきに音楽を愛し、情熱を捧げ、挫折した栄光なきミュージシャンたち。
夢に敗れ、くすぶっていた彼らに手を差し伸べたのは業界大手【モリガンレコード】の七城社長だった。
「アタシのために面白いゲームをしない? 勝てばメジャーデビューさせてあげる。そのかわり負けたら……」
その甘い囁きに抗うことはできなかった。そして彼らは今、ステージで脚光を浴びている。
それでも音楽の世界で生きていけるのか、もう一度、確かめるために。
「人狼」ゲームで、夢を掴むために−−。
「DISMISSⅡ」の舞台は現代。音楽の世界を追われそうになっている13名を大手レーベルのオーナーが、メジャーデビューという餌で釣って人狼ゲームをさせるというなかなかにエグい設定です。
人狼TLPTの「村公演」と呼ばれる設定では、村に人狼が紛れ込んでいるという状態なので、人狼は「悪」であり、人間は「善」という対立構造がはっきりしており人間側は一致団結して人狼を倒しにいくのですが、この「DISMISSⅡ」の設定は、ジャンルは違えど、自分の大切な音楽を奪われようとしているという同じ境遇にいる13人が、その境遇を知りながらお互い蹴落としあうのが見ていて辛いです。
この公演では、13人はそれぞれが持つ「戦う理由」があり、戦っている相手は他の12人ではないかもしれない。自身がゲームから脱落しても自身の陣営が勝てばデビューできるし、そうでなければ一生飼い殺しにされる。お互いの葛藤が目に見えて怖いくらいです。
千穐楽であるこのステージでは2日目に予言者、霊媒師が2人ずつ現れ、混乱しながらも霊媒師の2人を刺し合い、その後は予言者同士の信頼度を争う形に。最終的に5日目に全ての人狼側が退治され、狂陣(裏切り者)が残ったまま勝負に決着が着きました。
崩れ落ちる狂陣、そしてエンディングでは勝ったメンバーが歌う中、負けた4人はステージの陰でスタッフとして働くのでした。
髑髏(ドクロ)の旗のもとに集った海賊たち。
信頼で結ばれた彼らの船は、 幻の大陸を目指し海路を進んでいた。たどり着けばどんな願いも叶えられる、という伝説を信じて。
だが幽霊船との遭遇が、その旅に呪いをかける。唯一の生存者が、いまわの際に託した大陸の秘宝。
それに封じられていた禁断の呪術「人狼」が解き放たれてしまったのだ。
助かる手段は、呪われた“仲間”を見つけ、処刑すること。かくして悲壮な戦いが始まった。
はたして生き残るのは人間か、それとも人狼か──。
「flag」の舞台は海賊船。幽霊船からもたらされた秘宝の呪いから、人狼の3人は自身の意識を残したまま夜になると食人衝動が現れるという設定。従って、呪いの封印を解いたという狂陣(裏切り者)を除いた12名は戦いの場になっても「仲間」であることは変わりない。人狼も呪いから自然と嘘をつくという形なので、人狼も人間も日ごとに仲間を切り捨てていくことは「呪われた仲間を救う」という意味合いもあります。
この日のステージの初日、船から追放されたのはマドック。人狼TLPTではスタープレイヤーで、初日に排除されることは2年ぶりくらいだそうです。そして翌日、二人の予言者が登場し、センターで物語を引っ張る船長が疑われた追放されてしまいます。……が、登場した予言者二人とも偽物で、前夜に食い殺されたジャンヌが本当の予言者という意外な展開。
ゲームの妙で、狂陣は仲間の人狼を敵と思い込んで徹底的に勝負し続けるという物語になりました。
エンディングは呪われた二人が、残った一人を船から降りろ、逃げろと告げて、船を沈める決意をするというドラマティックな形で締められます。
ずっと不思議でした。
人狼TLPTはゲームとしては面白いのですが、舞台としてはアドリブだから、物語に矛盾点が生まれたり、芝居を忘れて後ろを向いて笑ってしまうようなお芝居としての破綻が見えてくる……なのに面白い。それは、人狼ゲームというパーティゲームの面白さであって、お芝居としての面白さじゃないと思い込んでいたんです。
ですが、年末年始の二公演を観て、ようやく気がつきました。人狼TLPTの公演には信じられないくらいの可能性があるということに。
人狼ゲームは面白いゲームですが、どうしても普通にプレイしているとギスギスとします。人を疑って、人を排除していくという形。人狼は獣で、その獣を追い出す人の構造が嘘つきと正直者の対立構造しか生み出さないからです。
もちろん、それはゲームの中の対立構造ではあるんですが。
ところが、年末年始のこの二公演。「DISMISSⅡ」では人狼はゲームから排除されても死ぬわけではありません。ゲームに口出し出来なくなっても、自分の陣営が勝つことを陰から必死に祈り続けます。ゲームに勝って歌う彼らは表舞台に出ていても、実は自身が信じた音楽の道からは外れているという影が残っています。
「flag」は一つの旗の下に集う海賊の仲間です。人狼は呪いであって、本心ではありません。仲間から疑われ、船から追放される中でも追放する側もされる側も、「仲間」であることを忘れません。
ただのパーティゲームに過ぎなかった人狼ゲームを、人を感動させるエンターテインメントまで昇華させた人狼TLPT、改めて凄いなと感じました。公演ごとの世界観をきちんと作り込んで、そしてその世界観で生きる登場人物を1ステージごとに作り込んでいく俳優たち、さらに1ステージごとに登場人物ごとの関係性も違ってゲーム展開も違う……これはこれからも成長する可能性しか感じられません。
なんたって、どのステージに行っても絶対に違う物語になるんですもん。
「演劇は生もの。1ステージごとに違う。」
どのお芝居もその通りなんですが、それを見た目にも分かりやすく「違う」と分かるお芝居は確かにここにしかないかもしれません。今をおいて他にないたった一つの物語……いいなぁ、東京以外の地方公演でも様々な設定の舞台が観てみたいなぁ……
公演名 | 人狼TLPT #25「DISMISSⅡ」/#26「flag」 |
---|---|
公演期間 | [#25]2016.12.27(火)~12.30(金) [#26]2017.1.6(金)~15(日) |
場所 | 新宿村LIVE |
サイト | 人狼TLPT公式サイト / Facebook / Twitter / ニコニコチャンネル「セブンスキャッスルチャンネル」 |
コメントを書く