雑読雑記:「綾辻行人殺人事件 主たちの館」

綾辻行人殺人事件

1980年代後半から90年代にかけて本格ミステリの旗手として活躍した綾辻行人が推理イベント「ミステリーナイト」内で殺害された……という趣向の推理イベントのノベライズ&イベントの紹介本。

なんたって、綾辻行人さんですからね……学生時代に「館シリーズ」にハマったウチとしてはついつい本を手に取った次第

謎の館「蜃気楼館」を再現した舞台の上で惨劇が起きた!
被害者は綾辻行人!?
残された血文字、開かずの間、密室、舞台にある仕掛け……
さまざまな謎と手がかりから読者は真相を見抜けるか?

2012年・夏に開催された推理イベント、ミステリーナイト「綾辻行人殺人事件『主たちの館』」。元々、1987年に今はなきホテルプラザ(大阪市北区大淀南)で閑散期の集客イベントとして開催され、2012年に25周年を迎えた長寿イベント。
記念公演となったこの年は、綾辻行人さんとコラボして、「館シリーズ」の現在のオーナーが集まって舞台をするという中で、登場人物が死亡し、その謎を解く中で綾辻行人さんまで死んでしまうという劇中劇のスタイルで演じられた。

参加者はホテルに宿泊し、2人を殺害した犯人を見つけ出すため殺害現場を捜査し、情報を交換し、推理し……ホテルに泊まっているのにほとんど寝ることもなく、「名探偵となる」ことを楽しむ。

舞台・イベント化された作品を、天祢涼さんがノベライズ。イベントの模様を時系列に紹介、仕掛け人の一人となった綾辻行人さんと、イベント中で綾辻さんがなくなったことへのお悔やみのコメントを寄せた有栖川有栖さんの対談、そして、25周年を迎えたイベントへの思いをプロデューサーである城島和加乃さんと構成のかとうだいさんのインタビューでしめるなかなか面白い構成の一冊。

もちろん、この種の推理イベントも芝居である以上は、ナマで参加しないことには本当の面白さは絶対に分からないものの、この一冊を読めば「ミステリーナイト」の魅力の一端が掴める構成になっているのは見事なもの。
綾辻行人さんと有栖川有栖さんの対談の中で、推理小説とミステリイベントの違い、また彼ら二人が関わっているTVの「安楽椅子探偵」との違いはもの凄く興味深いです。

推理小説は、もちろん謎解きの楽しみもありますが、別に推理せずとも、探偵が何に着眼したかはさっぱりわからなくとも、夢中になって読み進めるのが幸せでもある。それに対して「ミステリーナイト」は、目の前で事件が起きて、手がかりがポロポロとこぼれていくのを目の当たりにすることで思わず推理せずにはいられない、という臨場感がたまらない。」

ホテルに宿泊して参加するミステリーナイト。年に1回のお祭りのようなイベントですが、昨今大人気の「脱出ゲーム」以上に物語性が強いのが特徴。ハマる人は間違いなくハマりますよ……とは言え、妻帯者のワタクシには価格も形態もきわめてハードルが高いです……

いいなぁ、羨ましいなぁと思いながら、もっとこういう本格ミステリの体験型イベントが増えればいいなぁと思った夏の夜でした。

http://www.epin.co.jp/mysterynight/top.html