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タイムトラベルな日々:K.グリムウッド「リプレイ」

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先日、「あなたがここにいればよかったのに」を観劇してきました。

劇団お得意のを題材にした作品だったのですが、改めてタイムトラベル物が好きやなぁと思った訳でして。
で、ちょっと自己満足的に「タイムトラベルな日々」と称して、好きなタイムトラベル物を紹介してみようかなと思った次第。

まずは、「あなたがここにいればよかったのに」の元ネタと言いますか、アイデアの出発点になったというケン・グリムウッド「リプレイ」をご紹介。

リプレイ」は1987年にアメリカで出版された小説。翌1988年には世界幻想文学大賞を受賞している名作です。

物語はニューヨークの小さなラジオ局でニュース・ディレクターとして勤めているジェフが43歳の秋に心臓麻痺で突然死する所から始まります。
ところが、彼は死んだと認識すると同時に、再び目覚めます。場所は自身が過ごしていた大学寮のベッド、そして気づきます。
彼は18歳からの人生を”リプレイ”することになったということを。

一方通行型のタイムトラベル物です。
主人公のジェフは43歳までの経験と知識を持ったまま、18歳にタイムスリップしてしまいます。
人生の”リプレイ”で、未来の記憶を頼りにお金を儲けて……

過去に遡られるなら、試してみたいと思えるそんなシチュエーションから物語は転がっていくのですが、もちろんそんなに「うまい話」がある訳がありません。
大金持ちになり、音楽の才能を持った娘と幸せな日々を迎えていたジェフは、43歳の秋に再び命を失います。そして、目覚めると再度18歳……

怖くなってしまいます。
2度目の”リプレイ”が始まる時にジェフが感じた喪失感を、読んでいる自分も存分に抱え、そこからはジェフの物語にどっぷりとはまり込んでしまいます。
SF作品と言うよりある意味、に近い恐怖を覚えてズンズンと読み進めるのですが、終盤になっても心に感じる痛みは強くなるばかり。
最後までジェフの苦しさを感じ続けながら、それでも最後の最後に微かな「救い」がもたらされます。

爽快なストーリーではありませんが、ジェフが最後に「知った」ことを読んでいる私に刻んで物語が閉じられます。
そのあとエピローグが続くのですが、これがまた秀逸なんです。

ウチがこの小説を読んだのは22歳の時。
好きだった女性に木っ端みじんに振られて、自暴自棄になっていた時期でした。
「リプレイ」を読み始めた時には、ジェフと同じように18歳に戻れたらなぁと思ったのですが、小説を読み終える頃には、元気に……とはならなかったのですが、それでも「うんうん、前を向こうね」とは思えたのでした。

さて、ジェフが命を失って”リプレイ”を開始した年齢にウチも近づいてきました。
18歳に戻りたいかと言うと……いや、いいかな。戻らなくても。