新任生活保護ケースワーカー研修の講師として登壇しました

山口県社会福祉協議会から依頼を受け、1年目・2年目のケースワーカーを対象とした研修の講師を務めてきました。

これまで講演やオンラインセミナーに登壇させていただくことはあったのですが、企画も含めて1日お任せ頂けたので、書籍やオンラインではできない、そして新任ケースワーカーだからこそ刺さる内容をと思ってしっかりと組み立てて実施してきました。
受講後の受講者アンケートの結果は5段階評価で4.93、伝わってほしいと思ったところはきちんとお伝えできたのではないかと思います。

夏休みを取って、観光などもしてきましたが、なにしろ間もなく9月。
自治体の予算編成の時期かとも思いますので、ぜひ、来年度の初任者ケースワーカー研修をお考えのところがあればお呼び頂きたいと思い、どんな研修をしたのかをご紹介したいと思います。

研修の趣旨・目的

・対象は1年目(一部2年目)生活保護ケースワーカー
・受講者は8月実施(経験4か月)なので、実践的なアイデア
・とはいえ、基礎的な知識や技術の習得は必要
・外部講師とはいえ、受講者と同じ公務員としての講義を行う(ケースワーカーの立場を一番理解できる講師たる)

まくら 大変なケースワーカーの皆さんへ

研修のスタートは、事前にとったアンケートをまくらに。

受講者の7割はケースワーカー業務に負担を感じていて、中にはもう他の部署に異動したいって思う位。
うん、予想どおり。研修が終わったときにこの7割の割合を減らせられたらということでプログラムを組んでいます。

次は最近の生活保護関連ニュースのご紹介。
自治体の業務の中でも生活保護関連のニュースはよく目に入ります。一方で、そこで働くケースワーカーを取り上げる記事はまず無いので、ケースワーカーって大変だよねいうことをいつもお話しすることにしています。
この辺りの受講生の反応はまだイマイチ、この後どんな話になるのか分からず不安な様子が見て取れます。

グループワーク「Team ito」

皆さんはグループワークって好きですか?
研修でグループワークというと「やらされ感」を感じることが強いのですが、私はそれが嫌なので、自身が企画する研修は「やってて楽しい」を最優先にゲーム要素などを取り入れるようにしています。

で、今回はコミュニケーション系のカードゲーム「ito」を使った感情開放のワーキング。

各テーブルに座ったケースワーカー5人の自己紹介も兼ねて、普段の仕事で困っていることをゲームを通じて共有します。

お互いの「あるある」を共有することで、ケースワーカーが抱え込んでいる悩みや感情を引き出します。同じテーブルに座ったケースワーカーが、ゲームを通じてこの日のチームとして機能するようにする目的もあります。

初任ケースワーカーのための3つのポイント

「ito」で、受講しているケースワーカーが困ったことや悩んでいることが聞き出せたところで、講義パート。私が自著にも書いた「福祉知識ゼロ」なケースワーカーが実践すべき3つのポイントを解説します。

1時間や1時間半くらいの講演だと、この部分だけをお話することが多いのですが、今回の研修は前段に受講者の感情開放をしているので、それぞれのポイントで具体的な事例を組み込んでより深く説明することができます。

パーソナルワーク『ワークボカンシート』

3つのポイントを説明したあとは、具体的にケースワーカーの仕事の負担軽減をどうやって行うかを考えるためのワークを行います。

「ito」もそうなんですが、何をしんどい、きついと思うかは人それぞれ。得意なこと、苦手なことを自分で掴まないことには、どうすれば仕事がちょっと楽になるかは分かりません。

他人から見たとき、仕事が溜まっていたり長い時間仕事をしているのを見ると「しんどそう」と思うものです。ですが当人にとってはそうでもなかったりするので、この一週間にした仕事を「時間管理のマトリックス」を使って、自身の仕事を棚卸し。
棚卸しした仕事をA~Dに分けて、それぞれを「ケースワーカーとして」どれから・どう処理していくのかを説明します。

そして、仕事を溜めない一つの方法として、私が制作する「生活保護通知・通達総索引」をご紹介。午後の実践編に繋げます。

Utatane.Asia

インターネット上に初めて公開したのが2003年、とうとう公開20周年になってしまいました。 生活保護担当から他部署に異動…

グループワーク「事例検討RP(ロールプレイ)」

午後は実際のケースワークを実践する「事例検討RP」を行います。

事例検討というと、詳細な事例の提示があり受講者が回答(対応を検討)し、講師が模範解答を解説するようなパターンが多いようです。また、RP(ロールプレイ)というとケースワーカーと被保護者の役割に分かれて「被保護者の立場を理解する」といった形で研修されることが多いかと思います。

研修の対象者や目的によって、そういった研修が有効なこともあると思うのですが、個人的には、単なる答え合わせのような事例検討はケースワーカーのスキルアップに繋がらないと思っています。また、被保護者のロールプレイも初任ケースワーカーが演じるには被保護者の解像度が低く、単なる「面接ごっこ」で終わってしまう可能性が高く、研修としてはあまり有効ではないと考えます。

そんな訳で、初任ケースワーカー向けの事例検討として私が提供したのが、ケースワークの「プロセスを体験する」事例検討。そして、楽しさ、おもしろさを重視して、前向きに参加できるもの。

まずは、ケースワーカーにとっての必需品、生活保護手帳の読み方(使い方)を解説。

その後のグループワーク「事例検討RP」で、生活保護手帳を使うんだということを分かってもらいます。

その後に、本番。
事例検討では、「担当する被保護者から相談があった」という想定で、被保護者からの相談内容とその世帯の基本的な情報を提示。受講者には、「担当ケースワーカーとして、この相談にどう答えるか?」をまず一人で考えてもらいます。
その次に、同じテーブルに座った受講者同士が「同僚ケースワーカー」という設定で、「福祉事務所としての判断」を1つ考えてほしいということで議論を開始してもらいます。

ここで大切になってくるのが、ケースワークに必要な3つの要素

  • 「質問」被保護者や関係者に質問する
  • 「調査」保護を決定するために必要な情報を、(生活保護法第29条による)調査や照会で調べる
  • 「資料」関係法令や通達、過去の同様事例などを資料から調べる

この3つを議論中に受講者は実行することができます。そこにちょっとしたゲーム的なギミックを入れるためにカードを作っておきました。
そのカードを出題者の私の所に持ってきて、例えば「被保護者に○○という質問をしてください」とか、「生命保険会社に契約内容を調査してください」とか、「精選生活保護運用実例集の○ページを見せてください」と話すと、私がそれに回答します。

これは演劇×体験型ミステリの演劇公演の調査ターンのようなもので、私がNPC(ノンプレイヤーキャラクター)として、被保護者になったりSVになったりとロールプレイ(RP)するという仕組みです。
……グループワークって講師は見守るだけのことが多いのですが、これだと講師が結構しんどいんですが……

ロールプレイする私の手元には、受講者には公開していない設定シートを用意しています。
受講者の質問が上手だと、新たな情報が引き出され、出題された事例を深く検討することができるようになります。

タイムアップすると、各テーブルの最終的な判断を「被保護者に説明する」という形で確認し振り返りに入ります。

振り返りでは、検討事例を実施要領に即してどう判断するのかという解説もするのですが、私が大切にしているのはそこではないです。
この「事例検討RP」では、3つのカードを使ってふんだんに情報を集めたグループとそうでないグループでは「最終的な判断が明らかに異なる」ようにできています。
ですが、その異なる判断のどれか一つが正解と言うわけではなく、多くの場合は「どれも正解」になります。ただ、それが被保護者にとっては良い正解かどうかは違ってきます。

被保護者にとっての最良の正解にするためには、保護の決定を行うまでにできる限りの情報を集めて、ケースワーカー個人の判断ではなく、福祉事務所(組織)としての判断を行うことということをお伝えします。

さて、被保護者の相談を受けた瞬間のファーストインプレッション、それぞれの判断を話したときのグループでの判断、情報を集めて最終的な判断は同じだったでしょうか?
ケースワーカーとしての「知識」を高めることは当然大切なことですが、初任ケースワーカーにはそれよりも判断するまでの「プロセス」を学んでほしいと思います。


1日間、講師を務めさせていただきましたが、逆に言うと「たった1日」だけです。
翌日以降、私は受講者の方々が所属する福祉事務所にいるわけではありません。たくさんの事例をお話ししたり、受講者の方が直面している事例の解決策をアドバイスしてもその日の研修は受講者の方の未来には繋がらないでしょう。
研修で取り扱った事例は覚えていなくても、講師が誰だったか覚えていなくても、受講者の皆さんが翌日以降の仕事がほんの少しでも楽になっていたり、自分自身の成長に繋がっていたら嬉しいです。

ということで、初任ケースワーカー向けの研修としていかがでしょうか?
機会があれば、私が持っているものを私ならでは手段でお伝えします。
今年4月より一般社団法人公務員研修協会の認定講師として活動しています。公務員・元公務員の方が「公務員による公務員のための研修」を行っており、役所の事情も踏まえてご相談にのれるかと思いますので、研修担当の方がお読みでしたらぜひお問い合わせください。

一般社団法人 公務員研修協会

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