キャラメルボックス「リトル・ドラマー・ボーイ」昔と今日と未来

仕事に区切りをつけて早めに職場を抜け出して、次の年は最初から仕事を休みにして……21世紀になってから、この季節は新神戸に向かってキャラメルボックスのクリスマス公演を楽しんでいました。

新神戸オリエンタル劇場の閉館を聞いてさみしく思っている冬ですが、キャラメルボックスは今年もちゃんと関西にやってきてくれました。

新神戸でなく西梅田で、2階席でも舞台からの距離が近く感じる新神戸オリエンタル劇場ではなく黒い壁面で没入感のあるサンケーホールブリーゼで、名物のみき丸パンもありませんが……

それでも、「これぞキャラメルボックス」と言いたくなるオリジナル新作でした。

今と昔が交錯する新作

矢野トオルは英会話教師。10歳の時、ヒーリング能力を身につけた。トオルが右手で触れると、他人の怪我や病気が一瞬で治るのだ。が、事情があって、他人の前ではできるだけ使わないようにしている。12月のある夜、トオルは道端で瀕死の男を発見し、思わず右手で触れてしまう。男はすぐに息を吹き返した。トオルは逃げるように、自宅に帰った。翌日、自宅に、十文字と名乗る男がやってくる。十文字は、トオルが昨夜助けた男を探していると言う。十文字の仕事は、殺人代行業。つまり、殺し屋だった……。

昨年のウィンターツアー「[ティアーズライン]」で登場した殺人代行業、いわゆる殺し屋の十文字誠が再登場。

それも、主人公である矢野トオルの前に突然現れて拘束、30時間前からのトオルの行動を聞き出すという形で物語が始まります。「[ティアーズライン]」と同じような展開で、昨年も観劇している人はそれだけでもうニヤリ。

しかも主人公の矢野トオルは1996年の作品「TWO」の主人公。麻痺した右手に治癒(ヒーリング)能力をもち、その力のため住むところも点々としている物語のその後が気になる主人公。
「TWO」は再演されておらず、トオルを演じた今井義博さんは既に退団しています。それでも、当時の作品に出演されていた西川浩幸さんや大内厚雄さんが出演されているので、オールドサポーターもニヤリ。

光と影、生と死が交わるような二人の登場人物に、劇団の今と昔が交錯するような背景で描かれて、さらに「人が人を思う」という脚本の成井豊さんが描く軸がしっかりとどの登場人物にも存在している。そのうえ、それぞれの登場人物がたっている、見せ場がきちんとある。

そう、「これ観なきゃあかんやつ」です。

演者の未来が見えてくる

久しぶりに、一人一人の役者さんのことが書きたくなりました。どの役者さんも良かったんですよ、ホントに。

主人公の矢野トオルを演じている鍛治本大樹さん。
初めて見たのは恩田陸さん脚本の「猫と針」を神戸でビデオ上映した時かな。新人で場内整理をしていたんですが、カッコイイ男性だなと思ったのですが、それ以降の出演作であまり印象に残っていませんでした。
ところが、ここしばらくは外部出演、2.5次元系の舞台に出演して、気がつくとTwitterなどでも劇団の俳優さんのなかでもしっかりと発言することが増えて、存在感がグングンと伸びています。
今作のトオルは、ヒーリング能力という特殊な力をてらいも無く、自分の思いにまっすぐに生きている姿が格好良かったです。
大阪初日のカーテンコール、最後の言葉も良かったです。
……余談ですが、鍛治本さんは私と誕生日が同じで、大阪公演の千穐楽なんですよね。もいっかい観に行こうかな。

殺し屋の十文字誠を演じた阿部丈二さん。
外部出演やテレビに出演されたりもしていましたが、キャラメルボックスの舞台でとぼけたボケをかまして誰も彼も爆笑させる姿が大好きです。
そのくせ抑揚のついた演じ方で観ている側を物語に集中させるので、油断しているとハマってしまうんですよね。
ラストなんか、サラッと殺し屋十文字の面白さを演じてるのが恐ろしいです。

森めぐみさん。
最近はヒロイン役を演じることが多いのですが、少年ぽいヒロインが多いキャラメルボックスの中で、お姉さん的なヒロインで素敵です。美女というより憧れちゃうお姉さん。
矢野トオルへの思いが隠し切れていない感が表現されていて、ちょっとしたシーンでドキッとします。

殺し屋に狙われている野口恭平を演じた畑中智行さん。
今回の作品は「少年ラヂオ」や「トリツカレ男」などで見せた身体能力の高さを久々に見られて凄く楽しかったです。
ネタバレしたくないので深く書きませんが、こんなキャラクターを演じるんだという驚きがあり本当に楽しかったです。来年3月に私もハマっている人狼TLPTのmisssionの世界観の中でどんな悪党を演じるのか観てみたいです。

「TWO」にも出演されていた西川浩幸さん、大内厚雄さんのお二人は、本当にベテランらしい味で物語に素敵なアクセントを加えてくださっています。
大内さんはトオルの兄・ワタルとして、弟思いで時にストンとボケてくるので本当に油断ができません。
ミスターキャラメルボックス・西川さんは以前患った病の影響もあって台詞が不明確なところがあるのですが、やはりその存在感は格別で、窮地に陥ったトオルの目の前に杖を構えて現れた時の力強さはまだまだ現役の役者さんだなぁと感じました。

大森美紀子さんは、ピリピリするくらい二人の娘のことだけを考える母を演じていました。
我が儘で勝手なんだけど、母親ってああいうものなんだろうなぁと思えるほどで、特にトオルに詰め寄っている時の演技は鬼気迫るものがあり、胸が痛くなりました。すごいよなぁ。

小林春世さんは今までどちらかというと場を引っかき回すような役割が多かったのですが、今回は夫と義弟のことを心配する妊婦で、なんだか雰囲気が違っていて良かったなぁ……こういう役を重ねて行って素敵な役者さんになっていくんでしょうね。

若手の石森美咲さん、石川彩織さんも、命の短い父親を支える娘、病気で自分の夢を諦めないと行けないかもしれない女性とそれぞれの物語をきちんと丁寧に演じられていて好きになりそうでした。

最後に山﨑雄也さん。デカい。
キャラメルボックスの中では特に大きくて、カーテンコールの後も頭を傾げて掃けるのが可愛いですよね。
アクションシーンが迫力があって、これからこういうシーンには欠かせなくなる俳優さんになるんじゃないでしょうか。

50代から20代まで幅広い年齢層で、そしてそのそれぞれに魅力があって、その俳優さんたちの次、未来が見たくなる……そんな素敵なお芝居でした。

次はスロウハイツ

大阪公演の初日で情報公開された来年春の演目は「スロウハイツの神様」!

前説で社長の加藤さんが「昨年大阪でできなかったら、大ブーイングを浴びまして」と言ってましたが、ホンマですよっ!

大好きな、いや愛しているくらいの小説の舞台化再演。このサンケイホールブリーゼで観られるのが今から楽しみです。

公演名 キャラメルボックス2018クリスマスツアー「リトル・ドラマー・ボーイ」
公演期間 [八王子]2018年12月1日(土)・2日(日)
[大阪]2018年12月7日(金)~9日(日)
[東京]2018年12月15日(土)~25日(火)
場所 [八王子]八王子芸術文化会館
[大阪]サンケイホールブリーゼ
[東京]サンシャイン劇場
サイト 公演ホームページ