ついこの間、大崎梢さんの「クローバー・レイン」が、今年読んだ小説の中で一番て書いたのに、前言撤回します。「ハケンアニメ!」ダントツで今年読んだ作品で一番です。本当にズルいです。
伝説の天才アニメ監督王子千晴が、9年ぶりに挑む『運命戦線リデルライト』。プロデューサー有科香屋子が渾身の願いを込めて口説いた作品だ。同じクールには、期待の新人監督・齋藤瞳と人気プロデューサー行城理が組む『サウンドバック 奏の石』もオンエアされる。
ネットで話題のアニメーター、舞台探訪で観光の活性化を期待する公務員……。誰かの熱意が、各人の思惑が、次から次へと謎を呼び、新たな事件を起こす!
あぁ、だから物語はやめられない!
昨年の8月に刊行されたこの作品。大好きな辻村深月さんの作品だったので、当然手には取ったのですが……表紙画はCLAMPだわ、an・anで連載してたと言うわ、タイトルもなんだか狙いすぎでなんか妙な嫌悪感を抱いてしまって、初期の「凍りのくじら」「ぼくのメジャースプーン」「スロウハイツの神様」あたりの作品が大好きなウチは「図書館で借りるか」と思いっきりスルーしてしまいました。
アニメ業界を題材にアニメ監督とプロデューサー、そのライバル企画、二つの作品にかかわる原画アニメーターと作品を基盤に地域活性化を図る公務員と3編のそれぞれ違った視点から見た世界を連作中編で繋ぐ構成の作品。
わがまま放題の天才肌のアニメ監督、要領が良くてお金の匂いに敏感なプロデューサー、傷つきやすいアニメーター、登場人物それぞれの「キャラ立ち」がしっかりとしていて、なんというか……途中で、著者が違うんじゃないか、これ有川浩さんが書いたんじゃない? と思うくらい、物語の展開が予想出来るほどにベタなのにそれが心地良くて爽快です。
題材はアニメなんですが、帯に書かれた「“いい仕事”がしたい! やる気がみなぎる、お仕事小説誕生。」というのが本当に的を射てます。映画化された「ツナグ」とは違う意味で、誰にでも、
これは読め
とお薦め出来る面白い作品だと思います。
個人的にツボだったのは、やっぱり第3章の「軍隊アリと公務員」の観光に携わる公務員の下り。ウチは観光行政に携わったこともなければ、勤めている自治体も大都市ですが、そのエッセンスは十分共感できます。
特に、アニメと連動したご当地グッズを販売場所に納品するときに、
「こんなの市役所の本来の仕事じゃないですよ。運送屋さんのしごとです」と言ったアニメーターに「いや、業務ですよ」「僕の仕事です」という公務員の言葉が、それやよな、ウチらの仕事はそれやよとついつい力が入っちゃいました。
作中でわがままなアニメ監督・王子千晴が「リアルが充実してなくたって、多くの人は、そう不幸じゃないはずでしょ? 恋人がいなくても、現実がつらくても、心の中に大事に思ってるものがあれば、それがアニメでも、アイドルでも、溺れそうな時にしがみつけるものを持つ人は幸せなはずだ。」なんて言葉を吐く(個人的にはその先の「リア充どもが、現実に彼氏彼女とのデートとセックスに励んでいる横で~」の方がウチには刺さるんですが)あたりが、辻村深月さんの作品らしくて大好きです。
本棚のスペースを開けて置くスペースを作るので、この本を買いに行こうと思います。
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