「夏への扉」が再演されるので、キャラメルボックスの原作物の魅力を書いてみる

私が大好きな演劇集団キャラメルボックス
今月、ロバート・A・ハインライン原作の名作SF「夏への扉」を7年ぶりに再演するんですが、楽しみすぎてついついこんなエントリを書いてみようと思いつきました。

原作物のテレビドラマ化・映画化などというと、特に原作ファンは期待しつつも不安になってしまうもんです。そして、ドラマや映画になったあとに盛大に「なんでこうなるんやぁー!!!」とつい叫んでしまいがちです。
好きな原作物ほどそういったことになってしまうのですが、不思議とキャラメルボックスが舞台化した作品は今までそういった気分になったことがありません。そこで、キャラメルボックスが舞台化した原作物がなんで「イイっ!」のかと、どうしたら原作物が活きる作品になるのかを勝手に考察してみたいと思います。

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「SKIP」2004/2017年

キャラメルボックスが原作物に取り組んだのは、2004年の「SKIP」が最初です。

北村薫さんの原作「スキップ」は、著者が“時と人”をテーマにした三部作の第一作として1995年に発表された作品。

高校2年生の一ノ瀬真理子は文化祭の前日に自宅でうたた寝してしまい、目を覚ますと42歳の女性になってしまっていた。夫がいて、娘がいて、その娘は17歳、25年の月日を「スキップ」してしまった真理子はどうして生きていくのか……「SKIP」はそんないわゆる「タイムトリップ・タイムリープ」ものの作品です。

心は17歳、体は42歳というこの物語、原作を読んだときに一番気持ちが動いたのはその心と体のギャップからくる言葉の美しさ。スキップしてしまった25年を主人公の真理子の前向きな姿勢から発せられる言葉の一つ一つに勇気づけられます。

「わたしのモットーは《嫌だからやろう》なの」

そんな素敵な言葉の一つ一つを、キャラメルボックスでは舞台化に際して一言一句変えずに言葉にしていました。
あの素敵な言葉が本物の真理子が話しているというだけで気持ちが動くのが感じられます

そして、その一方で舞台上には過剰なセットはなく、回転舞台で時間や場面転換を表現します。
何より42歳の真理子、17歳の真理子を二人一役で、その時ごとの体と心を表現するというのは小説や映画では味わえない舞台だからこその表現方法です。

原作の言葉を大切に、それでいて小説では味わえない舞台ならではの魅力を感じられるのがキャラメルボックスの舞台です。

ちなみに、2017年の再演はキャラメルボックスの舞台ではなくプロデュース公演ということで、元乃木坂46・深川麻衣さんが17歳の真理子を、元宝塚歌劇団の霧矢大夢さんが42歳の真理子を演じてとても大評判だったそうです……観たかった。

「クロノス」 2005/2015年

映画化された「黄泉がえり」や、神秘的な主人公の「おもいでエマノン」のような素敵なSF作品を数多く書かれている梶尾真治さんの「クロノス・ジョウンターの伝説」の中の一作「吹原和彦の軌跡」を舞台化したのが「クロノス」です。

物語はシンプル。駅前の花屋で働く看板娘・来美子に恋をした吹原が初デートを取り付けたその日に、タンクローリーが花屋に突っ込んでしまい来美子は命を失ってしまいます。吹原は勤め先で研究していた未完成のタイムマシンで彼女を救うため時を跳ぶ……そんなストーリーです。

CS放送でこの舞台の千穐楽を観て、私はラストでボロ泣きになってしまい、以降、キャラメルボックスの舞台に完全にはまってしまったのは別の話。
原作を読まずに、偶然、この舞台を観ることになって、あまりにもハマってしまって、その日のうちに書店に飛んでいき原作を買ったのですが、原作のシンプルなストーリー展開にビックリしてしまいました。
「クロノス」は「SKIP」と違い、原作に色々と味付けがされた作品です。

もともと原作は短編集の中の一作。ストーリーも主に主人公の吹原、ヒロインの来美子、そして物語の聞き手となる博物館の館長の3人が中心になっています。
ところが、キャラメルボックスの舞台では、来美子の弟や吹原の妹、吹原が務めるP.フレックスという会社の同僚や上司といった原作では出てこない、または出てきても端役、記号のような存在でしかなかった存在が、それぞれのバックボーンが描かれ、舞台上でそれぞれ一人の人物として生きているのが感じられます

原作の小説を映像化する際に、失敗しやすいのが「サイドストーリーの追加」。特に短編小説や漫画の原作でやりがちだと思っているのですが、物語を膨らませるため、ついつい余計なものを付け足して、物語を枝分かれさせてしまいます。
キャラメルボックスの原作物で、原作にない設定や登場人物が増えたりすることがあるのですが、メインストーリーを枝分かれさせず、新たに加わった登場人物の物語は観た人それぞれに感じさせる程度に留めています。
その頃合いが本当に巧いです。

その後、キャラメルボックスでは「クロノス・ジョウンターの伝説」に収録された作品2作を舞台化するのですが、それに刺激を受けた原作の著者・梶尾真治さんは、当時キャラメルボックスに在籍されていた上川隆也さんが主人公を演じることを想定して新作を書き下ろしたり、舞台上で新たに表現された設定を続編に活かしたりしました。
また、それを受けてキャラメルボックスでは全くの新作を作ったり、原作ではそれぞれの短編では繋がりのなかった登場人物同士が繋がりを見せたりとお互いに影響し合っている関係性は本当に理想的やなぁと思います。

「鍵泥棒のメソッド」2014/2017年

原作というと小説、漫画から映画化やTVドラマ化なんですが、「鍵泥棒のメソッド」は映画版からの舞台化された作品。

映画版では堺雅人さんと香川照之さんの名コンビに、ヒロインは広末涼子さんというそのまま舞台化するのにはためらうキャストですが、映画版のテイストをほぼ忠実に再現しています。そう、あの銭湯でのシーンも。

キャラメルボックスでは一度お芝居が始まると暗転がないので、それぞれのシーンの大部分は俳優さんたちの演技に任されてしまいます。小道具はあるもののそこは銭湯でもないし社内でも、コンドウの高級マンションでも、桜井のボロいアパートでもありません。
ところが、映画で見たあのシーンが普通に浮かんできます。舞台上に銭湯ができていて、そこでちゃんと石けんで転ぶコンドウが表現されます。

単純に「お芝居って凄い」と思える作品です。

映画版のキャストで既にイメージが出来上がっている作品を舞台に持ってきてそのまま満足できてしまう。
映画版と舞台版の違いについては、2017年の再演時に内田けんじ監督を招いて開催されたアフタートークで存分に語っておられます。監督も大満足だったんですね。

「無伴奏ソナタ」 2012/2014/2018年

その他にもキャラメルボックスでは原作物を多数舞台化しているのですが、原作物でピックアップするなら、この「無伴奏ソナタ」は絶対に外せません。

原作は1979年に発表されたオースン・スコット・カードの古典SF作品。著者の代表作「エンダーのゲーム」と同じ本に収録されている短編なんですが、舞台版を見るまで全く思い出せませんでした。

全ての人の職業が幼児期にテストで決められてしまう世界。作曲家「メイカー」として見いだされたクリスチャンは、両親からも外界からも遮断された環境で、自分だけの音楽を作り、演奏して暮らしています。
クリスチャンが30歳を迎えたとき、見知らぬ男よりレコーダーを手渡されます。「これを聴いてくれ。バッハの音楽だ……」

音楽劇に近い形で演じられるこの舞台。主人公・クリスチャンの苛烈な物語に前のめりになって見入ってしまいます。
物語そのものの没入感が凄く、終盤になると観客の誰もが息をのみつつ泣くのを抑えながら舞台上の演技に視線を注ぐことになります。
そして、ラストシーン……初演時、それは「奇跡」だと言われました。観客の誰もが舞台上の登場人物と同じ気持ちになって大泣きしながら拍手を送る。原作を知っている人も、読んでいる人も、私のように読んでいても忘れている人も、ほとんどが同じような行動を取っていました。観劇の醍醐味が味わえる演目です。

運良くこの作品は、今年全国を回る「グリーティング・シアター」として再々演の予定。初演、再演を観る機会がなかった地域の方が、あの感情を味わうのかと思うとなぜか私も嬉しくなってしまいます。

「夏への扉」2011/2018年

そこで、今回再演される「夏への扉」です。

1957年に出版された古典中の古典のSF作品。オールタイムのベストSFとして評価されたこともあるタイムトラベル小説の不朽の名作といっても過言ではない作品です。

これが書かれなければ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も『バタフライ・エフェクト』も作られなかった!

うん、確かに。

原作が好きで好きでたまらないから不安な人。大丈夫です。「SKIP」でもそうだったように、原作の大切な台詞はきちんと俳優さんたちが素敵な声で紡いでくださいます

原作を勝手に改変されたくないから不安な人。大丈夫です。「クロノス」でもそうだったように、小説ではどうしても切り捨てられてしまうディティールを、そう「万能フランク」が動く姿だって見られますよ。

原作で大切な存在、猫のピートをどうされるか不安な人。大丈夫です。「鍵泥棒のメソッド」でもそうだったように、できあがってしまっているイメージを舞台ならではの手法で、笑いながらも勇敢なピートを応援できるはず。

原作を読んだことがないから不安な人。大丈夫です。「無伴奏ソナタ」でもそうだったように、原作を知っていても知らなくても原作が持つ魅力を最大限に引き出して気がつけば大満足です。

初演時は東京での公演中に東日本大震災により一部公演中止になった経過もあり、7年ぶりの再演、本当に楽しみにしています。ここまで読んだあなたは絶対に観たくなっているはず。
本当にぜひ観てください。観て後悔しないと思いますよ。

公演名 キャラメルボックス2018スプリングツアー「夏への扉」
公演期間 [東京]2018年3月14日(水)~25日(日)
[明石]2018年3月28日(水)・29日(木)
場所 [東京]サンシャイン劇場
[明石]アワーズホール
サイト 公演詳細ページ / 公演公式Twitter