- 2020年2月17日
体感型脱出アトラクション「LIFE LINE Ⅱ」防災には体験が必要だ
(株)フラップゼロが日本各地で実施している体験型防災アトラクション「LIFELINEⅡ」に参加してきました。 一昨年……
以前こんな記事を書きました。
[sitecard subtitle=関連記事 url=https://utatane.asia/blog/2021/11407/ target=]
本当は3月までに、3年間でやってきた訓練や研修についても書こうと思っていたのですが、なんだか微妙に忙しくなって、3月半ばには「これは異動なさそうだぞ」と思い始めて、つい書かずじまいになってしまいました。
そして、エクストラステージの4年目に突入。
3年目にやり残したこと、進化させようと思ったことを今年は実践しています。
そんな中、Facebookでたまに今こんな形で仕事しているんだよーと書き込んでいたら、私の取り組みに興味を持っていただいて「ガッツリと話して見ませんか?」とお誘いがありました。
防災4年目に入った私。
以前からゲーミフィケーションに興味を持っていて、オンライン市役所ではゲーム推進課を立ち上げました(ただし、今は緊急事態宣言で休業中……オイ)
訓練では「前知識が無くても災害が発生したら、どの職員もレベル1の防災担当にクラスチェンジできる」ことを目的に、ゲーム要素を盛り込んだものを実施しています。
このオンラインイベントでは、実際に実施したゲーム型の訓練の概要を説明したんですが、ゲーム教材を使ってみたいという方やもう少し詳しく聞いてみたいという方がいたので、今回はブログにもう少し丁寧にまとめたいと思います。また、ゲーム教材のうち私が制作、リメイクしたものについては別記事を作成してサンプルデータを配布することを考えています。
長文ですので、目次を見ながらお時間のあるときにどうぞ
「ゲーミフィケーション」という言葉は、2011年にアメリカのリサーチ会社ガートナーが取り上げています。
ゲーミフィケーションの定義は論者により様々ですが、広義では「社会的な活動にとってゲームが役に立つこと。」とされていて、私も無理に定義を狭めない方がいいなぁと思っているので、ここではゲームがどう防災の訓練に役立っているのかを書こうかと思います。
防災の訓練にゲーミフィケーションが良いと私が思っているのは、主に次の3点
つまり、災害現場での経験がなく、災害への警戒も少ない人に対して、「いざ災害が起こったら、訓練・研修に参加した人は最低限の動きを知っている」という状態になってもらうためにも、訓練・研修に参加してもらう仕組みが必要です。
そのため訓練をゲーミフィケーションの仕組みを使って極限まで参加のハードルを下げ、そのハードルを跳んだ時の達成感を感じてもらうのはかなり「イイ線をついているんじゃないの?」と思う訳です。
と前置きを書いたところで、実際に使用したゲーム要素が含まれた訓練教材とその概要についてご説明。
今年、私が所属する区役所で行った職員向け訓練(研修)で使用したものです。
なにより、それぞれの教材について大切にしているのは、
ゲーム(訓練・研修)に参加しているときに面白いかどうか
です。受講者のアンケートで「おもしろかった」という答えがなければ、その訓練は失敗だと思っています。
区役所に採用されたばかりの1年目や、他所属から異動になってきたばかりで区役所のことをあまり知らない職員向けの研修では、「ダイレクトロード」を使用しました。
「ダイレクトロード」は神戸市消防局の樋口さんが開発された巨大地震発生直後の1時間という人が最も命を落とす可能性が高い切迫した状況を疑似体験するシミュレーションゲーム。
巨大地震が発生した瞬間にその場に居合わせた6人が1チームとなって、初期消火、避難の呼びかけ、応急手当、人命救助などを協力して行います。
お互いが持つ情報は断片的で、災害時に情報が錯綜する様子を疑似体験することができます。
ゲームとしては謎解き要素があり、タイムアップと同時に参加者間で答え合わせをする様子がそこらで見られ、ゲームへの没入度がうかがえます。
ここでは、地震発生時に町中でどういうことが起こっているのかということを理解してもらい、そんな中で区役所(災害対策本部)はどんな対応をしなきゃいけないのかというところに繋げていきます。
[blogcard url=https://www.city.kobe.lg.jp/a10878/bosai/shobo/bousai/directroad.html]
通信訓練として使用したのは宮崎賢哉さんが作られた「災害情報&コミュニケーション演習(DICE/ダイス)」です。
「DICE」は災害時に使用する無線機、トランシーバーの利用を実践する訓練です。災害時には無線機よりもLINEなどのメッセンジャー機能がという意見もありますが、災害時に何が使えて、何が使えないかはその場になってみないと分かりません。
普段から使い慣れていない、そして災害時に使用するとして配備している無線機の使用方法はきちんと訓練しておく必要があります。
従来の通信(無線)訓練というと、あらかじめ決められたシナリオ通りに通信してみるといったものが大半ですが、これでは災害時に全く役に立たないと思って、「DICE」を導入しました。
「DICE」はあらかじめ決められたシナリオではなく、それぞれの場所に災害時に発生する状況とそれを解決する手段が、複数の場所にバラバラに用意されており、参加者が無線通信をとおして、それをマッチングさせていくことで自然と無線機を使った通信を行うことができるゲームです。
シナリオがないため、ゲームを開始すると「どこかに医者はいないか?」「水が足りないので増配を願う」といった通信の中に、「子どもがぬいぐるみを無くして泣いている」といった通信が混ざるといった、災害時に一度に色々なことが発生するカオスな状態での通信を再現できるのがとても面白いです。
複数回行う場合はタイムトライアルにして、過去の最高クリア記録などを表示することもできます。
私は区役所での訓練で使用する際に、次のようなカスタマイズを行いました。
[sitecard subtitle=関連記事 url=https://utatane.asia/dice-lite-standard/ target=]
[blogcard url=https://note.com/kenyamiyazaki/n/nf4460e3b891f]
災害が発生すると避難所を開設し職員を派遣することになりますが、避難者の受入をシミュレートする訓練教材として有名なのが、静岡県で開発された「HUG」です。
[blogcard url=http://www.pref.shizuoka.jp/bousai/e-quakes/study/hinanjyo-hug.html]
避難者の受入をベースに自主防災組織などの訓練に有効な「HUG」ですが著作権、商標権が登録されており地域事情に応じた改変が許可なしにできないので、図上訓練というベースは変えずに一から新しいものをデザインしました。
「HUG」との違いは、
といったところ。
ターン中、本来の避難所運営ではあり得ない「自分の避難所では対応しづらいカードがあれば隣に押しつけて良い」という仕組みを入れることで、急に目の前に現れた難題をすぐに処理するという切迫感に迫った対応シミュレーションができます。
カードや進行マニュアルなどはテンプレート化して後日公開予定
各区に立ち上がる災害対策本部の情報処理演習として新たに考えたのが「HIT」。
災害対策本部の訓練教材はあまり見当たらず、多くの区ではあらかじめ作成した本部運用マニュアルに沿って、机や資機材などの準備、黒子役から与えられる被害状況付与に対応する形で訓練を実施しています。
このやり方には「訓練になれた一部の職員に処理が集中する」「訓練の全体像を参加者は把握できない」という2つ問題点があり、これを解消できる訓練手法を考えていました。
災害時の区災害対策本部での情報処理の流れを、参加者全員が体験するという仕組みです。
普段の訓練であれば、被害状況付与に対して、無線機や電話を使って黒子役(ゲームマスター)に対応を指示するんですが、1チーム4人で複数の本部を立ち上げている設定なので、ここではアクションシートに行動を書いて、黒子役(NPC)に持っていくという形で行動を起こしています。
このあたりは、私が大好きな演劇×体験型ミステリのすゞひ企画の捜査パートを参考にさせていただいています。
「NPCは優秀なので、正しいアクションをしたらすぐに結果が返ってきます」
といった煽りも大切。想定される対応結果をあらかじめ宛名シールに作っておいて貼って、アクションの結果を返すあたりはTRPGのような感じですね。
実際にこの間2回開催したのですが、まだまだこちらはゲームバランスの調整が必要な感じ。
カードや進行マニュアルなどはテンプレート化して後日公開予定
さて、こういったゲーム型の訓練を実際にやってきたんですが、ゲームをやったらそれだけでうまくいくかというと、そうじゃありません。
ゲームは訓練に参加する人の色々な障壁・ハードルを低くしますが、その効果を高めるためには、ゲームへの導入部そして特に振り返りが大切です。
導入部はゲームへの期待を高めたり、職員などには「この訓練をやる意義」を伝えることでゲーム参加の本気度が違ってきます。
特に、職員向けでは、私は必ずこの「大阪市防災・減災条例」のスライドをあげて、「真剣に取り組むんだよ」と念押しをして、「じゃ、ゲームします!」と雰囲気を一変させています。
そして、振り返りですが、「ゲーム上で起こったことにツッコミ」を入れます。
振り返りでよく見られるのは、参加者同士のグループワークや感想発表。
ですが、グループワークや感想発表の形を作ることで「ゲームをやった」という体験薄れるのは残念なところです。
グループワークなどで気づきを共有するのではなく、ゲーム中に起こった出来事にゲーム全体を見ているゲームマスターがツッコミを入れることで、ゲーム自体の体験を深めることが可能です。
例えばDICEだったらこんな感じ。
実際にゲームで起こった出来事を直後にツッコんでいるので、それを実際に目にした参加者にはきちんと気づかせることができます。
先日やったDICEだと、こんな通信がありました。
「●●避難所です。こちらには頭痛薬と通訳のカードがあるので欲しい人は取りに来てください」
早速、私は振り返りで「頭痛薬と通訳って!」とツッコミました。
そこから、情報を短い言葉でどう伝えるかとか、複数の情報を一度に伝えるのはどうかとか、情報の優先度はといった形で振り返ります。
ゲーム+振り返りのツッコミ
ゲーム中は、進行役のゲームマスターはツッコミ要素をメモっておくという仕事が増えますが、このツッコミ振り返りをやると、ゲーム型訓練の深度が深まります。
ファシリテーション力というよりはツッコミ力こそ、ゲーム型訓練の進行役には必要な力です。
とまぁ、こんなお話をさせていただきました。
ゲーム型の訓練はこれからも深めていこうと思っていますので、ご興味のある方はお声がけくださいませ。
ここに書いた教材、早くテンプレートにしますね。
当日の模様をグラレコにしていただきました。ありがとうございました。
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