河野裕「いなくなれ、群青」喪失感を慈しむ

いなくなれ、群青

11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凜々しい少女、真辺由宇。
あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。

階段島と呼ばれる奇妙な島に暮らす七草。
いつもよりも早い時間に目覚めた彼が、気まぐれで海沿いの道を歩いていると目の前に知った女性が現れた。

真辺由宇

目一杯、理想主義者で気づかないうちに自身を追い詰めている彼女。彼女は決してこの島に来るはずがない女性だった。「捨てられた人たちの島」であるこの階段島に。

階段島に暮らす者は「捨てられた」とされている。「捨てられた」島民は、失った物を思い出せれば島から出ることが出来る。
七草はそんな島で穏やかに暮らしていたが、悲観主義者の自分とは真反対の真辺が目の前に現れたことで、どうしようもなく動かされていくことになる。

独特の空気感の漂う物語。捨てられた人だけが暮らす孤島で、長い階段の先には魔女が住んでいるという世界。
登場人物もそれぞれがクセのある人ばかりで、そんな中に現れた真辺の直線的な行動が羨ましくもあり痛々しく感じられる。

島に住むという魔女の正体と、それぞれが失ったものが何かということを鍵に七草視点で物語が進むが、ミステリという感じではなく、登場人物それぞれの言葉や行動に浸ってしまって気がつくと吸い込まれている感じ。
失ったものが何かという謎が明らかになってからの展開は、それこそ痛々しくて、読んでいるこちら側まで喪失感に襲われてしまいます。

悪くないラストだと思うのですが……これ、シリーズ物なんですか? という感じ。
続き読んでみようか。