愛すべき小説を見つけた。有川浩「旅猫リポート」

愛すべき小説を見つけた。有川浩「旅猫リポート」

写真(旅猫リポート)好きな作家さん、好きな小説に出会う機会は、雑読を続けていれば少なくありません。

空飛ぶ広報室」で今年の直木賞の候補にも挙がった有川浩さんも、そんな”好きな作家”さんの一人。
もちろん、映画化された「阪急電車」や、アニメ化された「図書館戦争」シリーズ、舞台化された「シアター!」、その他にも「植物図鑑」「ラブコメ今昔」も”好きな小説”ですし、ウチの仕事である地方公務員が登場する「県庁おもてなし課」なんかは苦笑いしながらも”大好きな小説”だと言うています。

が、”好きな小説”と”愛すべき小説”との間には、うまく説明できないけれども歴然とした差があります。
作品そのものの素晴らしさ、作品を手に取った時の昂揚感、作品に接したその瞬間の自身の状態、そして、作品を読み終えたときに得る心の動き…何もかもが愛おしく思えるそんな奇跡的な”愛すべき小説”に出会えることはそう多くはありません

そんな作品に出会うこと出来ました。有川浩さん「旅猫リポート」。ネタバレはできる限り最少に”愛すべき小説”をご紹介。

“吾輩は猫である。名前はまだ無い。 と仰ったえらい猫がこの国にはいるそうだ。 その猫がどれほどえらかったのか知らないが、僕は名前があるという一点においてのみ、そのえらい猫に勝っている”

銀色のワゴンのボンネットをお気に入りの場所にしていた名前を持たない野良猫。
車の持ち主サトルとはお互いの距離感を大事にした心地よい関係を続けていたが、ちょっとしたヘマで事故に遭い、怪我を助けてもらったことをきっかけに飼い猫”ナナ”になった。
それから5年、やむなくナナを手放さなければならない事情となったサトルは、二人で銀色のワゴンに乗って旅にでる。
物語は、サトルがナナの引き取り手を探して、昔からの友人を順に旅していくロードムービー。 小学生時代、中学生時代、高校時代とそれぞれの友人とのやり取りを飼い猫ナナの視点で、友人たちの回想を交えて描きます。
それぞれが一つの短編になっており、全体としてサトルとナナの物語になる構成。有川浩さんらしい”恋愛”を隠し味……いや、隠れてはないか……に、テンポの良い猫主観の言葉が気持ちよく物語を読み進めさせます。

高校時代の友人・スギとチカコとの物語の終盤、サトルがナナを手放さなければならない事情が明かされ、物語の終着点が匂わされると、二人の旅をより濃密に感じその世界に入り込むことになります。

最後の旅路はダダ泣きです。
サトルとナナが見た景色に、サトルの叔母の回想に、サトルの行動に、ナナの行動に。

これからしばらく、「最近読んだ小説で良かったのは?」と聞かれると、「有川浩さんの旅猫リポート」と答えることになるでしょう。まずは私と同じく小説が好きな母にこの物語を伝えます。
数年経つとロバート・A・ハインライン「夏への扉」、北村薫「スキップ」、東野圭吾「秘密」「トキオ」、岩本隆雄「星虫」などと同じように何度も何度も「好きや」と言って色々な人に薦めるでしょう。

「旅猫リポート」は有川浩さんが、舞台化を前提に書き上げた作品。
演劇集団キャラメルボックスの俳優・阿部丈二さんとの演劇ユニット「スカイロケット」として、2013年4月3日~7日に東京の紀伊国屋サザンシアターで公演されることになっています。

実は私、この公演が東京だけなので、観に行くのを諦めるために本を買ったのですが、読み終えてこの公演が観たくて困ってしまっています。
阿部丈二さんのサトルだけでなく、ナナ、モモなどの猫を誰が演じるのか、4つの物語をどうまとめるのか、サトルとナナが見た風景をどう魅せるのか……気になってたまりません。

…どうしよう。平日だったらチケット買えるなぁ。

私がこの記事を書いたよ!

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があ

大阪生まれ・育ち・勤めの雑食系公務員。 福祉職だと勘違いしている人が大多数ですが下っ端事務職。濃い顔付きから沖縄人やらトルコ人やら間違える人大多数。違う、違うんだよ~

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