キャラメルボックス「ティアーズライン」年末なのにクリスマス

今年最後の観劇は、いつもの。とはいっても、いつもならそろそろクリスマスソングが聞こえるかなという11月末頃なんですが、今年は年内最後の仕事を終えた翌日の12月29日、しかも場所は行き慣れた新神戸ではなく明石でした。

色々な理由があって、当初は関西公演は「なし」になるところ関係者の尽力で行われた明石公演。せっかくなので気分になって、新しく買ったレンズももってを連れて行ってきました。
気が焦りすぎて、開場30分以上前に着いちゃったので、明石海峡大橋を眺めに行く時間までとれてラッキーでした。

キャラメルボックスらしさのあふれる舞台

物語のスタートは部屋の一室。友人の鯉川(多田直人さん)を探しにきた横手(畑中智行さん)は、十文字(阿部丈二さん)と名乗る男に襲われ、とらわれの身に陥ってしまいます。
十文字は鯉川と横手を殺す依頼を受けた「殺人代行業」で、横手に「俺を感動させる話をしたら許してやる」と気まぐれで言い放ちます。横手は旅行中に昏睡状態に陥った母が目の前に現れるという不思議な話を始めます。

最近は原作物も多く手がける成井豊さんが書いた新しい物語は、いかにもキャラメルボックスらしいものに仕上がっています。死に瀕した人物が強い思いを持って家族らの目の前に現れるのは「水平線の歩き方」だったり、「君の心臓の鼓動が聞こえる場所」といった作品を思い出しますし、携帯電話を通じて本当なら繋がらない相手と話すのは「ハックルベリーにさよならを」のような不思議な気持ちを思い起こさせます。アクションシーンがたっぷりの作品は最近の作品にはあまりなくて、なんだか「キャンドルは燃えているか」のような先行きが見えないけれども高揚感を覚える雰囲気がちょっと似ている気がします。
「人が人を思う」という大きなテーマは大切に、ちょっと不思議な物語が紡がれるのはキャラメルボックスの魅力です。

今回の主役は横手を演じた畑中智行さんですが、実質は友人の鯉川を演じた多田直人さん、謎の殺人代行業・十文字を演じた阿部丈二さんを合わせた3人の共演。3人とも劇団内では中堅といった感じですが、ここ数年の作品では主役を演じることが多く、しかも多田さんや阿部さんは外部出演が続いた(阿部さんはクロムモリブデンに出演した時のクズ男が凄かった)ので、3人そろって出演されるのはキャラメルボックスを見続けてきた人にとっては興奮することしきり。少年っぽい可愛さの残る畑中さん、観るものを引き付ける迫力を備えた多田さん、トリッキーな台詞回しがクセになる阿部さんと、三者三様の魅力は、かつての西川浩幸さん、上川隆也さん、近江谷太朗さんの3人のような劇団だからこそ現れる俳優さんたちの妙が現れてきたような気がします。

そんな3人をミスターキャラメルボックスの西川浩幸さん、元気のかたまり大森美紀子さん夫妻(大森さんはカーテンコール後の退場時に一番最後までいてくださっていてもの凄く元気をいただきました)、変化自在の役を操る魔女・坂口理恵さんらが脇を固め、3人らと同世代の三浦剛さんがしっかりと敵役をつとめ、若手たちも活き活きと演じています。
30年続く劇団だからこそ築かれているこの安心感は、本当に素敵で、劇場に行くと私のような「おっさん」から、20代の若者、学校などで演劇に触れているであろう中高生、そして私らの子どもたちが見られます。「演劇なんて観たことない」って人に、やっぱり最初に勧めるならキャラメルボックスだなぁと思ってしまいます。

2018年はすごいことになる……といいな

2018年の最初の公演はロト・A・ハインライン原作の「夏への扉」の再演です。初演は2011年、私にとってはバイブルのような、本当に大好きな作品で、大阪のサンケイホールブリーゼで観た時は嬉しくてはしゃいでしまいました。しかしその後の東京公演中に東日本大震災に遭い公演は一時中止。以降、キャラメルボックスさんだけではありませんが、演劇を観る人が減ったといいます。キャラメルボックスでは観客数が激減して、ステージ数が減り、今年の夏の公演ではとうとう関西での公演が無くなってしまうようなことになりました。

「お芝居を観る人にとっては関係ないやん」というかもしれませんが、2011年以降のキャラメルボックスさんを追っかけてきた私にとっては、その歩みは本当に勉強になります
容疑者Xの献身」「アルジャーノンに花束を」「鍵泥棒のメソッド」など、著名な原作物が増えて演劇には興味がない人が劇場に足を運ぶきっかけを作られました。
少ない出演者で様々な地域をまわるグリーティングツアーも年に1回、定番の公演形態になりつつあります。今回の明石公演なんかはそれがきっかけになったものですし、役所の人(私)の視点では劇場に駆けつけていたパパたこさんのように、周りの人を巻き込むってことは本当に大事やなぁと思いました。

劇団に所属する俳優さんたちの外部出演は以前にも増して積極的になったと思いますし、それぞれの俳優さんたちの魅力はさらに増しています。また、ちょっとしたことかもしれませんが、以前に比べて芝居の中で見られた「内輪ウケ」が少なくなった気がします。西川さんの「背が低い」とか、三浦さんの「アゴが長い」といったいじり方は定番だったんですが、今回の舞台ではそういったキャラメルボックスをずっと観ている人なら分かるネタは皆無で、それでも阿部さんが繰り出す「昭和」ネタで度々笑いが起きていました。

2018年の最初の作品に「夏への扉」を選んだのは、震災からの7年を迎えたキャラメルボックスの決意なんてものを勝手に感じてしまいます
「夏への扉」を再び観ることができるのが嬉しいですし、そしてまた「演劇って観たことない」って人に、「キャラメルボックス良いよ!」って伝えられるのはちょっと嬉しかったりします。
来年はすごい年になるといいな。トライアスロンパス(年間パス)も購入したし、来年もやっぱり観に行きます。

公演名 キャラメルボックス2017ウィンターツアー「ティアーズライン」
公演期間 [東京]2017年12月15日(金)~25日(月)
[明石]2017年12月28日(木)・29日(金)
場所 [東京]サンシャイン劇場
[明石]アワーズホール・明石市立市民会館
サイト 公演サイト