七月隆文「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」2回読んで、2回目に泣く

読み返したくなる小説、漫画ってあるじゃないですか?
驚愕のトリックで、意外な犯人で、物語の登場人物が愛おしくて……色んな理由があって読み返したくなる、読み返しちゃう。泣きながらだったり、呆然としながらだったり。そういう小説、漫画の二読目は、なんとなく答え合わせのような気持ちになります。

ベストセラーが苦手です。「感動の作品」「絶対泣く」とか言われて、TVドラマ化されたり映画化されて、それが強調されるたびに、なんだか感動を強要されているような気持ちになってしまうので、そういう作品に遭遇すると、1年か2年か、誰もが「あぁ、あれね。」というくらいまで寝かして、誰もが私に感動を強要しないようになってから、その作品に触れるようにしています。
これは、そんな「寝かしていた」小説

京都の美大に通うぼくが一目惚れした女の子。
高嶺の花に見えた彼女に意を決して声をかけ、交際にこぎつけた。
気配り上手でさびしがりやな彼女には、ぼくが想像もできなかった大きな秘密が隠されていて──。

「あなたの未来がわかるって言ったら、どうする?」

奇跡の運命で結ばれた二人を描く、甘くせつない恋愛小説。

彼女の秘密を知ったとき、きっと最初から読み返したくなる。

むずがゆくなるような恋愛小説です。通学途中の電車の中で一目惚れした高敏、もう自分には鈍ってしまった感覚ですが、このむずがゆい感覚は僕にも経験があります。うまくいくことも、うまくいかないこともそれもこれもひっくるめて素敵な恋愛小説です。

日常に隠れてしまいそうなミステリです。人は死にませんが、高嶺の花に見えて近づいてみるとそうじゃない愛美さんが抱えている秘密は、「普通」の恋愛を隠れ蓑にしっかりと伏線を張った素敵なミステリです。

ちょっと切ないSFです。SFには時をテーマにした物語が多数あります。時の流れは一方向な中、飛んだり、遡ったり、繰り返したり、様々な発想で様々な人が時と人を紡いできました。この作品は、交差する時の流れを描いた素敵なSF小説です。

あらを探せば、色々とあります。愛美が高敏に隠していた秘密を語るシーンがあっさりとしすぎていたり、高敏が5歳、10歳の時のエピソードはあるのに15歳の時のエピソードがないのはなんでか、とか。

この小説を読み終えた時、涙は出ませんでした。心がざわめく感じはありませんでした。
どんでん返しが素敵なミステリを読み終えた時のように、ちょうど答え合わせをするように、最初のページに戻って読み返しました。
プロローグでうるっときました。第1章の最初の愛美の涙につられるように涙が出ました。その後はダメでした。1時間半くらいをかけて、もう一度この小説を読み返してしまいました。

「主人公の気持ちになって」とかそういうのとはほんの少し違います。愛美の心の揺れも高敏の心の揺れも全てがぼくの心のを大きく揺らしてくれました。

素敵な小説でした。多分、もう一度読もうとはならないでしょうけど、初読よりもすぐの再読で心を揺さぶられた作品ははじめてかもしれません。素敵な小説でした。