NO IMAGE

グイン・サーガ131「パロの暗黒」:窓が開いた。

NO IMAGE
グイン・サーガ130~132
グイン・サーガ130~132

誰かがこの物語を語り継いでくれればよい。どこかの遠い国の神話伝説のように、いろいろな語り部が語り継ぎ、接ぎ木をし、話をこしらえ、さらにあたらしくして、いろんな枝を茂らせながら

いつもの半分の厚みの130巻の後書きで、著者である栗本薫さんが、新装版の後書きに記した言葉を書かれていました。
当時、栗本薫さんが亡くなって半年ほど。一人の作家により書かれた世界最長(ギネス未公認)の物語が未完となったことは理解できていたものの、新たな書き手により、この続きが書かれることはないだろうなと思っていました。

あれから4年。今、当時と同じ装丁で、イラストレーターも丹野忍さんのまま、131巻と132巻がウチの手元にやってきています。
とうとう正篇の続刊が発行されました。不安と期待を胸に、最初のページをめくりました。

第1巻が刊行されたのが1979年(昭和54年)。
30年以上も前にスタートした作品なので、ウチだけでなく読み続けてきた読者にとっては特別な作品であることは間違いありません。

ウチがこの作品を知ったのは中学2年生のとき。
通っていた中学はちょうど立て替えの時期で、プレハブ校舎で学んでいました。
ウチは小学生の低学年から本の虫でしたが、その頃好きだったのは
子ども向けの少年探偵団、ホームズからエラリー・クイーン、アガサクリスティとどっぷりとハマっていたのですが、同級生のAくんが「これ、おもろいで。」とたしか1~5巻を貸してくれたのがスタートでした。

最初の1巻、2巻はこういうヒロイックに慣れてなかったので読んでいてもキツくて、「面白い」と言ってた同級生に悪いので貸してくれたのだけは読もうと思っていたのですが、3巻あたりから読むのを止められなくなりました。
同級生に本を返してからは、自分で改めて続きも買って読みふけり。授業中に机の下で読み続けて、1日に5巻分を読んだこともありました。

刊行ペースが速いときも遅いときもありましたが、ほぼ発売日に書店に立ち寄って買って帰って、その日に読み終えるのは当たり前の作品。

それだけに栗本薫さんが亡くなられた時の喪失感は大きく、著者の夫・今岡清さんが中心となり「グイン・サーガ ワールド」を始められ、他の書き手によってグインの居る世界の物語が新たに生み出されても「同人誌みたいな二次創作やよなぁ」と、本は買うものの”積ん読”になってしまっていました。

4年が経ちました。

の世界からは完全に離れたウチに、Amazonさんがグイン・サーガ131巻をリコメンド。外伝が出ているというのは知っていたのですが、まさか正篇の続刊が出るとは。

「うーん。」と唸りながらも、気がつくと131,132巻を購入してしまいました。

うーむ、思い入れがあるので、相変わらず文章にムダが多い。

で、さっそく五代ゆうさんが書いた正篇131巻「パロの暗黒」を読んでみました。

……………………面白い。

舞台はパロ。絶筆となった130巻で、ゴーラ王・イシュトヴァーンがある目的をもって再度パロへの侵入を図ろうとする場面から再開。
登場人物の選択、口調、地の文の言い回しに栗本薫さんが書くグイン・サーガとの違いを見つけながら、5ページ、10ページと読み進めて行くうちに……渇いた喉に久しぶりの水が通ったように、何もかもが気にならないように読みふけってしまいました。

面白い、面白いよ、これ。

考え方が子どものままのイシュトヴァーン、望まぬ職に疲れ愚痴りながらも職をこなすヴァレリウス、王子なのに心は放浪の吟遊詩人のマリウス……主要な登場人物が「こんなのじゃない!」と言わせない描写で活き活きと記されています。
栗本薫さんの書き口とは違うのですが、そんなことはどうでも良い位、グイン・サーガです。

4年前、130巻のレビューで、ウチは「この世界を繋ぐ窓は閉じられてしまった。マリウスのように、グインの世界を歌うことが出来る吟遊詩人を待つ」といった感じで書いたのですが、これは本当に望んでいた形そのものです。

例えば、ある人物の話をするときに、私が話すのと友人が話すのでは同じ出来事であっても、その語り口は変わってきます。もしかしたら同じ事実であっても、聞き手にとっては全く違った出来事に感じられるかもしれません。
五代ゆうさんはプロの書き手として、栗本薫さんのコピーではなく正篇を書くと高らかに宣言しました。
この世界を歌う新たな吟遊詩人として、二次創作ではなく、正篇として出版される意味がここにはあると思います。

「栗本薫のグインじゃなきゃ……」と思っているかつての読者にこそ、手に取って欲しいと思います。

相変わらず、自分自身の思いがダラダラドロドロとこぼれ出た冗長な文章ではありますが、131巻を読んで、嬉しくなってしまったので夜中につらつらと書いてしまいました。
これで、ウチは新しいグイン・サーガの世界を楽しんで行けそうです。

さ、132巻。今度は宵野ゆめさんが歌う物語だ。