古びた印刷所「三日月堂」が営むのは、昔ながらの活版印刷。活字を拾い、依頼に応じて一枚一枚手作業で言葉を印刷する。そんな三日月堂には色んな悩みを抱えたお客が訪れ、活字と言葉の温かみによって心を解きほぐされていくが、店主の由美子も何かを抱えているようで。
装丁の美しい文庫本に引かれます。
読んだことのない作家さんの作品に最初に触れるのは、その装丁。この本もその美しさに引かれました。
小江戸と呼ばれる埼玉県の川越の古びた印刷所「三日月堂」に帰ってきた弓子。祖父が死んでから閉めていた印刷所を、ちょっとしたきっかけから再開することになります。
息子の成長と巣立ちを嬉しさの中でさみしさを感じる母親、叔父から引き継いだ珈琲店で叔父の影を追い続ける店主、珈琲店で見つけた活版印刷に生徒と自分を重ねる学校司書、祖母の遺品の活字に導かれて三日月堂を訪れる結婚を控えた女性。
今では珍しくなった活版印刷所を舞台に、4つの物語が紡がれますが、大きな謎や活劇が繰り広げられる訳ではありません。普通の生活の中で、普通に抱える悩みがちょっとしたきっかけでほんの少し幸せになるそんな穏やかな物語です。
活版印刷による印刷物がそれぞれ素敵なアイテムとして登場しますが、押しつけがましくなく、物語にしか現れないそのアイテムがちょっとだけ「欲しい」と思ってしまうのが良い雰囲気です。
素直に素敵な物語でした。続編も出ているようなので読んでみようかな。
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