劇団結成から31年目の演劇集団キャラメルボックス。
今年最初の演目は梶尾真治さん原作の「クロノス・ジョウンターの伝説」から「きみがいた時間、ぼくのいく時間」の再演です。
原作者の梶尾真治さんが当時劇団に所属していた上川隆也さんをイメージして作った物語を8年ぶりに再演、しかも今回は脚本家の成井豊さんが物語に登場するタイムマシン、クロノス・スパイラルにまつわる新作を書き、14人の役者が2つの2時間のお芝居を同時に上演するという「ダブルチャレンジ」と銘打ったとおり挑戦的な公演です。
きみがいた時間、ぼくがいく時間
2008年1月、住島重工の研究員・秋沢里志は、海外派遣留学を終えて、3年ぶりにニューヨークから帰国する。空港で待っていたのは、5年前に別れたはずの恋人・紘未だった。自分の帰りを待ち続けていた宏美に、里志は激しく心を動かされる。一方、里志は住島重工の子会社P・フレックで、新しい機会の開発に携わることになる。それは、物質を39年前の過去に送り出す機会クロノス・スパイラルだった。最初の実験の日、里志のもとに電話がかかってくる。宏美がトラックに撥ねられ、病院に運ばれた……。
世界を変える研究をしたいと願った研究者が、妻を失い、妻を救う唯一の手段として不完全なタイムマシン、クロノス・スパイラルを用いて39年前に遡る物語。
自分自身が生きてきた人生を捨てて、自身や愛した妻が生まれる前の39年前に遡って、妻を失った事故を防ぐために39年間を待つという胸を締め付ける展開が続きます。
39年間の時間を過ごすことになった秋沢が、その39年で出会う人々との関係が生まれ、そしてその人々の人生までも変えてしまいます。
原作小説以上に登場人物一人一人の人生の変化が丁寧に描かれ、それは決して全てがハッピーエンドではないことがまた辛く感じます。
舞台上で39年の人生を演じ続ける秋沢を演じるのは阿部丈二さん。昨年はTVや外部公演でさらに力を付けてきた実力派の俳優さんが、初演で秋沢を演じた上川達也さんとも遜色ない演技を見せつけます。
舞台上で30代から70代まで、たった2時間で演じ分ける姿は圧巻です。
フォーゲット・ミー・ノット
1970年4月、小学6年の吉野てるみは、母の節子が運転する車で帰宅する途中、事故に遭う。男が突然、車の前に飛び出してきたのだ。急いで男を病院に運ぶが、彼は記憶を失っていた。彼の持ち物を調べると、P・フレックという会社の社員証が見つかる。そこに記された名前は、春山恵太。節子は春山に、記憶が戻るまで自分の家に住めと言う。しかし、春山は何も思い出せない。唯一頭に浮かんできたのは、「クロノス・スパイラル」という意味不明の言葉だけだった……。
「きみがいた時間、ぼくがいく時間」と違って、物語のスタートは1970年。記憶を失った春山恵太は自己を通じて知り合った家族が経営する映画館で暮らすことになる。
「クロノス・スパイラル」という謎の言葉と、周りの人たちと合わない一般常識。
もう一本の物語「きみがいた時間、ぼくがいく時間」と平行する時間軸で生きる春山恵太の物語は、彼自身が記憶喪失ということもあって、彼が何者でどうしてクロノス・スパイラルを知っているのかが徐々に開かされる展開。
恵太が暮らすことになる映画館で暮らす親と子、そして孫の関係性が深く描かれ、「親が子を思う気持ち」「子が親を思う気持ち」が決して一直線ではなく複雑な感情も入り交じります。
そして、恵太がその場で接するのにはやっぱり意味があって。
主演の春山恵太役の筒井俊作さんは、「きみがいた時間、ぼくがいく時間」で演じた縫製会社の社長・広川のようにどちらかというとコミカルな役が多い俳優さん。
上川隆也さんや阿部丈二さんとは全く異なる物事に立ち向かうひたむきさが魅力的です。
二つの作品で同じ役柄を演じる俳優さんとそうでない俳優さんが入り交じり、その対比がものすごく面白いなと思います。
「きみがいた時間、ぼくのいく時間」では、原作に登場しない柿沼純子などが登場します。紘未を思い続ける秋沢と39年を併走しながら、秋沢を思う純子の姿が切なすぎます。
「フォーゲット・ミー・ノット」では、秋沢が39年前に飛んだあとのP・フレックやこれまでのクロノスシリーズの様々の出来事が組み込まれていく面白さが観られます。
一つの作品で楽しめる、二つ観るともっと楽しめる、「クロノス・ジョウンターの伝説」や過去のクロノスシリーズを観ていたらまた楽しめる。
そんな作品です。
大阪公演は24日(水)まで。いやぁ、もっと観たいなぁ……初演のダンスも好きだったけど、今回のも良かったし。
公演名 | フォゲット・ミー・ノット/きみがいた時間、ぼくがいく時間 |
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公演期間 | [大阪]2016年2月20日(土)~24日(水) [東京]2016年3月11日(金)~3月27日(日) |
場所 | [大阪]サンケイホールブリーゼ [東京]サンシャイン劇場 |
サイト | 公演詳細サイト / 劇団facebook / 劇団Twitter |
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