やっと酉乃の本心を受け止めることが出来たと思ったクリスマスのあの日。
勢いと雰囲気の力を借りて告白した僕は、なんと彼女の返事はおろか、
連絡先さえ聞き忘れたまま冬休みに突入してしまった。もしかして迷惑だった?
悶々と過ごす僕に、新年早々織田さんたちからのカラオケの誘いがかかる。
そこで起こったちょっとした謎を解くべく、
僕は「サンドリヨン」へと向かうが……。
第19回鮎川哲也賞を受賞した「午前零時のサンドリヨン」の続編になる連絡短編集。
前作の雰囲気が好きだったので、図書館で見つけて借りてみました。
ワトソン役は少し頼りない男性、探偵役はミステリアスな雰囲気を持つ女性でちょっとした特技を持つ……このパターンのライトノベル多いですよね。そらで3つ4つ言えそうですが、「ビブリア古書堂の事件手帖」がウケたのが一番大きかったのか今でも同様のシチュエーションの作品が増えていますね。
こちらの作品の探偵役・酉乃初は女子高生。学校では物静かでちょっと近寄りがたい雰囲気をもっている彼女が、夜はレストラン・バー「サンドリヨン」でマジックを堂々と演じる。
彼女に一目惚れの平凡な須川くんが遭遇した「日常の謎」を、酉乃さんが見事に解き明かす……といった感じだったんですが。
今作は物語の視点を前作同様に須川くんにした「Blue back」というパートに、須川くんと酉乃さんが通う学校で起こっているいじめに巻き込まれてしまった女子学生の視点の「Red back」というパートが交互に現れるという構成。
カラオケの最中に突然様子の変わった同級生の謎、バレンタインデーに配られたチョコレートが一か所に集められる謎といった人が死なないいわゆる「日常の謎」に遭遇した須川くんに、鮮やかな推理を見せる酉乃さん。須川くんが巧く進まない恋に身もだえている姿は微笑ましくて、なんとなく自身の学生時代を思い出してしまいます。
うんうん、このくらいのラブコメ感は良い感じ。
寧ろ注目したいのは「Red back」の展開。仲間からハブられないためについた言葉が傷つけて、気がつくと周りからハブられてそして「赤ずきんは、狼に食べられた」と黒板に書き付けて学校に来なくなってしまった友人のユカ。
「Blue back」のすがすがしい印象とは対照的に、じりじりと火に焼かれるような苦しさが続きます。
学校に来なくなってしまった友人に会いたい、謝りたいという気持ちとどうすれば良いのか分からずに自身を追い詰めていく感情移入します。
二つのパートは物語が進むにつれて少しずつ近づいてきて、須川くんのまっすぐな気持ちからくるおせっかいと、それに動かされる酉乃さんの行動は全体の物語を綺麗に整えます。完全なハッピーエンドではなくて、バッドエンドからほんのちょっとだけ希望が見えるという締め方は大好き。
日常の謎系のミステリで、連作短編を繋いで全体に通じる謎を仕掛けておくという構成は今ではある意味ありふれていて、ちょっと損しているよなぁという感じが拭えません。結構、ヒロインの酉乃さんが好きなタイプなので、続編が出版されていないのが本当に残念。
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