市川拓司「ねえ、委員長」 実らない初恋の物語

ねえ、委員長

ミリオンセラーになって映画化もさらた「いま、会いにゆきます」や、「そのときは彼によろしく」などで有名な市川拓司さんの作品集。図書館の返却棚の一番前に置いてあったので、ついつい手にとって読み始めたらついつい3編とも読んじゃいました。

実らない恋も、
悪くない。だって、
ずっと君を
好きでいられる

短編集というよりも短編、長短編、中編といった作品集。どの作品も学生時代の「初恋」をテーマにしたウチにとってはこそばゆい感じのする作品になっています。

最初の短編「Your song」は、クラスの異物の特異な才能に気づいた陸上部のわたし。
からかいの対象になっている彼に、マラソン大会で10位に入ればとびっきりの美女からのキスがプレゼントされるというあまりにも「旨い話」が持ち込まれる。わたしは「旨い話」に乗った上で彼に協力するが……

「泥棒の娘」は歌が巧く、コルネット(小型のラッパ)を得意にするも誰もから嫌われている女の子を好きになった男の子の話。どうしても彼女を救いたく、でも行動に移せず彼女の机にメモを入れる。
「ねえ、きみはひとりじゃない」

最後の中編、表題作の「ねえ、委員長」は、学校で誰にでも信頼されている委員長が、皮肉屋で学校一の問題児と本を通じて心を通わせていく物語。
彼には複雑な家庭の事情があって、委員長にももちろん抱える事情があって……

三編とも、「いやいやいやいや……こんな情景ないでしょ」とツッコミを入れたくなるような学生時代の「自分だけの特別な恋愛模様」を描いています。
もちろん、ウチもこんな恋愛を経験したことはないですが……、それでもこういう物語を読むとついついなんとなく甘酸っぱい思いが沸いてきます。

個人的に「いいな」と思ったのは表題作の「ねえ、委員長」で、彼が委員長を呼びかける言葉。一度も「ねえ、委員長」とは言ってないんですよね。読み返していないけど、多分。「なあ」とかは言っているんですけどね。
それでも、この小説のタイトルは「ねえ、委員長」がぴったり合っている気がするのが不思議。