柏木ハルコ「健康で文化的な最低限度の生活」第2集 CWの苦悩と失敗とホンの少しの幸せと

健康で文化的な最低限度の生活

昨年、私の同業者で話題になりました新人の奮闘を描いたの第2集。
宝島社の「この漫画がすごい!2015」のオトコ編第10位になったとのこと(個人的には、オトコ編とオンナ編に分ける必要性を感じないけど……)。

第1集で東区の東部福祉事務所に新人ケースワーカーとして配属された義経えみる他4名。
配属初日に担当ケースが自殺し、児童虐待が疑われるケースに遭遇し、就労指導をしようとすると隠していた借金が見つかるといった具合で振り回される。
第2集では、えみるだけでなく「巧く行ってる」と思われた同期の新人ケースワーカーにも問題が頻発します。

第1集でも思いましたが、作者の柏木ハルコさん。本当に現場のケースワーカーを取材してるんやなぁと思われる台詞やシーンが一杯で、結構身につまされながらも、ちょっと気持ちが救われます。
普段からこの仕事をしていて、受給者に、内部の職員に、善良な市民に、弁護士や市議や受給者を支援する人たちに、そして興味範囲の記者やフリーライターに……まぁ、責められたり貶されたりすることが多すぎるくらいに多いので、一面的に捉えずに、現場の本当に”リアル”をこういう作品として表現してくださる方がいるというのは嬉しかったり。

しかし、まぁ……読んでいると、自身の失敗をパカパカと思い出すので、それはそれで苦しいのですが……第2集の台詞で振り返ってみます。

「生活保護受ける以上指示に従う義務があるんです!!」

……うん、言いがち。熱血系ケースワーカーの七条が、精神疾患を抱えながら病識に乏しく通院しようとしないケースに言ってしまう一言ですが、ウチもになりたての頃はついつい連発していました。
今でも言わないかというとそうじゃないんだけど、この言葉を使うときには、そうなるまでの積み上げがないと言葉が空滑りするんですよね。
七条の心の声の「め…めんどくせ~~~」も分かるし、その後の自身が眠れなくなったりというのも……もちろん、私も経験あります。

「押したり引いたり」で、そうそう人は動いてくれませんからねえ

法テラスに相談に行こうとしないケースにえみるが苦労していた時に、先輩ケースワーカーの半田が話して巧くいって、えみるが漏らした「私の説得では押しても引いても動かなかったのに。」に答えた一言。
「経験値の差ですね。」とあっさりいった後の一言ですが、ケースワーカーって本当に経験値を貯めていってこそ出来ることってのがあるんだよなぁと納得してます。
そういう意味で、短期間で異動させるなやぁ! と査察指導員の立場になると思うこともしきりなんですが。
あ、そうそう、このあとの「ああ、あれ。ウソです。」も凄く良く分かります。ウチも場合によってはやるんで。

本当に…ありがとうございました。

こういった真正面から感謝の気持ちを述べられることは、本当に稀ですがあります。
仕事が見つかって生活保護から自立するとき、再婚相手が見つかった母子世帯のお母さん、長年絶縁状態だった兄弟に連絡をとれた高齢の方……ほとんどの場合、ケースワーカーが必死になって何かをした結果ではなく、ほとんどがケース自身が動いた結果だったりするのですが、この言葉をかけられる時ってのは、砂漠の中で見つけたオアシスの水のようにケースワーカーの体には染みこんできます。本当に嬉しいです。

対象者に巻き込まれるな

不正受給の返還について生活保護法第78条ではなく、第63条を適用して返還金の一部免除を考えるえみるに係長が言う一言。
日々、受給者と接するケースワーカーは、不正受給が発覚してもなかなか冷徹に法第78条を適用できなかったり、返還金の分割を長期間にしてしまったりしがち。
その辺り、自立支援と指導というバランスが本当に難しいんですよね。ケースに寄って支援するのと、わがままを許して、不正を見逃すのとは違うんですが……混同して、つい易きに流れちゃうんですよ。ケースワーカーも人間なので、厳しく接するのはしんどいんで。
査察指導員になると、そのバランスをどう取るかでまた頭を悩ますんですが。

理論派の栗橋ケースワーカーの失敗や、えみるが同級生たちとの呑み会で無遠慮にかけられる言葉、不正受給を犯してしまった高校生の気持ち、「おめーらの給料だって税金じゃねーか!!」……詰め込みたいことを詰め込んでいる作品です。
生活保護のケースワーカーって何? と聞かれたら、まずこの漫画を読んでもらうのがいいかなぁ……しかし、毎日、この漫画と同じかそれ以上の”リアル”を前にしているのに、どうしてこれ読みたくなるんでしょうね……