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『まちのファンをつくる自治体ウェブ発信テキスト』狩野哲也/TPOを考えた自治体情報発信

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行政、自治体は情報発信が苦手だという。

そんなことはない。自治体職員でも素晴らしい情報発信で成果をあげている事例がたくさんある。
では、なぜそれができないのか……

以前よりお世話になっているフリーライターの狩野哲也さんが本を出版されました。
大阪北部のときの情報発信について尋ねられたので、「何もできなかった」という恥ずかしい答えをしたところ、一冊献本いただきました。

自治体の情報発信は誰のためのもの?

著者の狩野哲也さんは、フリーランスのライター・編集者で、私は彼が主宰する「サロン文化大学」のトークで(多分)知り合いました。

水都大阪江之子島文化芸術創造センターで情報発信講座を行うなど、主に大阪での文化、芸術の発信の中心地にいる狩野さん。
何より驚くのは、その情報感度。全国様々な情報発信事例を的確に捉え、自身でWeb記事としてアップされています。今回の著書では、そんな狩野さんが捉えた自治体のウェブ発信のキモを数多く収録しています。

内容は、芸術・文化、などにとどまらず普段からのの活用や災害時の情報発信まで様々。

全てに共通するのがTPOに応じた情報発信ということです。
自治体の情報発信は誰のためのものなのかを考えて、どう発信するのかという意味で、これほどの良書はありません。

自治体による情報発信の最新事例

本書では、「自治体ウェブ発信の実践」「ウェブの使い方基本編 / 応用編」という3部構成で実際の事例が紹介されています。

私個人が気になっていた情報発信手法などを含めて、取り上げられていたものについていくつかご紹介します。

いいいいいいづな / 長野県上水内郡飯綱町

いいづなコネクト - 人を結び縁をつなぐ地域の拠点

「いいづなコネクト」は、長野県飯綱町の閉校したふたつの小学校を再活用した複合施設のコミュニティサイトです。いいづなコネク…

町役場の企画課地域推進係が取りまとめているものの、記事を書いているのは町民ライター。
町の魅力を等身大で発信するには、役所の職員という立場は枷になることもしばしば、だからこそそういう余計な枷がない立場から情報発信していただけるのありがたい限りです。

市民(町村民)ライターという形でWeb記事をあげている自治体も今では多くなりました。

個人的には大阪でも……と15年ほど前に職員提案してみたことがあったんですが、SNSが今ほど一般的でない時期で、うまく担当局・課を言いくるめられなかったですね。悔しい。
今だったら、さすがに周回遅れなので、ちょっと工夫しないといけません。

尼ノ國 / 尼崎市

AMANISM-アマニスム(尼崎市) | 暮らしやすさの先にある住み心地

尼崎に住むための情報サイト「AMANISM-アマニスム」。利便性などの暮らしやすさと人の近さが感じられる住み心地を併せ持…

兵庫県尼崎市の「尼ノ國」はその工夫がしっかりと形になっている好例。

市民ライター、スタッフに任せきりになることなく、尼崎市への「定住・転入促進」という視点で、風景、人、食、学びと、その町で暮らす上で「気になるところ」が読みやすくまとまっています

私が好きなのは「尼ノ民」のコンテンツ。8月現在40名の「尼ノ民」が生き生きと暮らしている様子を、インタビュー記事にまとめています。

また、市職員に(元)漫才師の江上さん、桂山さんという飛び道具を持っているのもズルいです。
……から転職するなら尼崎市だな……雇ってくれないかな。

新発田市100彩食堂 / 新潟県新発田市

日本最大の料理レシピサービス。392万品を超えるレシピ、作り方を検索できる。家庭の主婦の作った簡単実用レシピが多い。利用…

お笑いで行政のあれやこれやを発信する尼崎市さんも素敵ですが、新潟県新発田市のこちらはクックパッドを利用して、地元の食材を使ったレシピや、健康増進に役立つレシピを紹介しています。

メニューの数は8月現在で355! スゴいなぁ。

もちろん私の職場の栄養士さんも、高齢者や乳幼児を育てるお父さん・お母さん向けの料理講座を開催したりしているのですが、実際に講座に来た人やTwitterで流した情報を見た人にしか届いていないのがもったいないところ。

クックパッドの利用者は最近は他のレシピサイトに流れて減少気味とはいえ、月間600万人のアクティブユーザーがいると報じられています。
市役所が発信するTwitterや、講座に来た人数とは比べようがないほど途方もない人にアプローチできる訳です。

行政はどうしても外部サービスを使うことをためらいますが、今やTwitterやFacebookを使用していない自治体は少なくなっています。発信する内容に添ったツールを使い分ける柔軟な発想を持ちたいですね。
……ウチの栄養士さんにも伝えておこう。

情報発信のキモは「TPO」

第2章、第3章では、第1章で紹介されているコンテンツなど実践例と違って、具体的な「情報発信手法」について丁寧に説明されています。

こちらも実例を元にしており、私が特に役立ったのが災害時における情報発信について。

大阪北部地震の時、何もできなかった反省も込めて、平成30年7月豪雨時の倉敷市の対応や、熊本地震時の熊本市・大西市長のTwitterの発信事例を読んで、どうすれば災害時に「私以外の職員が」SNSで発信できるのかを考えています。

そのほかにも、SNSを使う上での公私の分け方、情報発信のタイミング、ハッシュタグなどキーワードの入れ方、そして何より「コロナ禍における自治体職員からのSNS発信」についても書かれており、本当に参考になります。

TPOを踏まえた情報発信に加えて、この本で学んだことをTPO……「徹底的に パクる OK」の気持ちで、ぜひ情報発信に取り組みたいものです。