180618大阪北部地震を体験した防災担当より

[写真:フリー写真素材 ぱくたそ]
7時58分、いつも通り着替えて、出勤の準備をしていたところでした。

ドーン! 爆発のような音がした途端、体が大きく揺れました。北側に開いた窓から外も揺れているのを見ながら、妙に冷静な気持ちで、「あ、あかん揺れや」と思いました。

息子と妻はリビングに退避。揺れてはいますが、大きな物は落ちてきていない。揺れがおさまるのを待って、玄関ドアなど脱出経路だけ確保。大きなだというのは分かったのですが、家は大丈夫だと思い「仕事行ってくるわ」といって、階段を駆け下りました。娘の無事はこの時点では確認できていません。
途中、同じマンションの人が廊下に出てきていて、「避難所に行ったらいい?」と聞かれたので、「マンションは大丈夫だと思うので、しばらく部屋で様子を見てください!」と叫びました。

最寄りの地下鉄の駅は閉鎖されています。自宅近くのまちはあまり被害が無さそうなので、タクシーで区役所に行くことも考えましたが、余震が来たり変なところで足止めをくらったら元も子もないと思い、歩くことにしました。問題なければ歩けば1時間強、9時過ぎには着けることは防災担当になってから確認済みです。

天神橋に差し掛かったあたりで思ったのは、私と同じように足早に歩くスーツ姿の男たち。その段階ではまだ大きな揺れが来る可能性もある時間なので、「お前らアホか」と思いながら周りの状況を見て、赤信号に遮られたら状況報告のツイートをしながら区役所に向かいました。

幸いにして内、特に淀川以南の各区の被害は軽微で、まだ発災から5日しか経っていないのに、こうやって自宅でブログ記事を更新しようとしています。
防災担当者になって3か月弱。被害の大きかった高槻や茨木、北摂の方や私と同じ防災担当者のことを考えると、こんなことを書いてていいのかと思うこともあるのですが、それよりも自身が持つものをシェアするのが元広報担当、現防災担当のすべきことを考えて、

  • あの日、区役所(の職員)はどう動いたか
  • 今、防災担当者は何を考えているか
  • 今だからこそ大阪の人の準備して欲しいこと

を中心に私見を書き連ねたいと思います。かなり長文になり、写真などの素材もありませんが、読んでいただければ幸いです。

災害が起こっても区役所は動く

大阪市内で震度4以上の地震が起こると、大阪市では動員体制がひかれます。今回は大阪市北区茶屋町で震度6弱という地震が観測されたので、1号動員(職員全員)が発令され、8時3分に私の手元にはメールが届き、あらかじめ定められた参集場所(私の場合は天王寺区役所)に到着するまでの見込み時間の報告求められています。

その時、天王寺区役所にはいつもより早めに登庁していた職員が2名いたので、すぐに区災害対策本部が設置されました。
毎年、阪神・淡路大震災が起こった1月17日に地震を想定した訓練を行っているので、全くためらいはありません。

職員の多くは区役所の近くに住んでいる訳ではないので、地震が起こったときに初動体制を支える区役所職員以外の「直近参集者」というものが定められています。
私が登庁した9時過ぎには既に何人かの直近参集者が災害時避難所に向かっていました。区内の被害状況は避難所に向かった直近参集者や連絡を取っている警察署、消防署、工営所などから入り、この時点で区内の被害がほとんどないことが確認でき一安心しました。

区役所の1号動員体制が解除されたのはその日の17時半頃、初動体制が取れる最小限度の人数の4号動員体制が解除されたのは翌19日の17時です。現在は緊急連絡体制ということで、災害対策本部には2名の職員が交代制で24時間待機しています。私は日曜日の夕方から翌朝まで従事する予定です。

区役所は災害時にいつまで開くべきか?

当日、区内の被害はほとんどなかったことが確認され、余震はあるものの区役所は開庁し通常業務を行っていました。

とはいえ、ご承知のとおり当日は関西圏はほとんどの電車が止まっており、登庁できない職員も少なくありませんでした。私のように災害対策本部に詰めている職員もあり、それぞれの窓口は最小限の人員しかそろっていません。

折しも国民健康保険の保険料を通知したこともあり、窓口には減免などの手続きに訪れる区民の方が少なからずいました。保険年金の窓口は課長代理が立って、来庁者の対応をしており大きな混乱はありませんでしたが、大変混み合いました。

阪神・淡路大震災の発災時、私は戸籍担当だったんですが、「記念やから」と婚姻届を提出にきた人がいて衝撃を受けました。私にはその感覚が全く理解できないのですが、役所がどんな状況にあっても来庁する人はいるんだということは認識しておかないといけないと思います。

少なくとも職員全員に参集指示が出ている1号動員体制のときは、通常業務は停止すべきなんじゃないかと感じました

災害時の広報はどうすべきか?

今回の震災では、大阪市長がツイッターを頻繁に更新しました。不正確な情報があったということもあって、賛否が入り交じっているようですが、私が気になったのは現場側の広報。

私は3月まで広報担当だったので気になっていたのですが、当日はとてもじゃありませんが、積極的に防災担当としてなどで発信する余裕がありませんでした。区の広報担当者は市外居住だったので、登庁は大幅に遅れました。

今回の震災でも、京阪電車が脱線したとか大阪ドームに亀裂が入っただのデマが流れましたが、現在の状況を素早く入手できるSNSでの「公的な」情報発信は非常に重要です。

ですが、災害時の情報発信に関しては訓練などしていませんので、実際に災害が起こった時に担当する職員によって発信量、情報量に大きな差がでました。個人の資質に依存するというのは非常に危険だと思いますし、この辺りはもう少し考えておいた方が良いなと思いました

……あと、災対本部などがバタバタしている時や窓口の混乱状況など、広報担当がきちんと記録しておくのも大事なんですが……今回は、全くそういうことができませんでした。元広報担当としては、その辺りは多いに反省です。

災害後に問い合わせが多かったことから

災害発生後、普段はあまり鳴らない防災担当の電話が結構頻繁に鳴っています。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」といいます。今、熱さを感じているうちに知っておいて欲しいので、問い合わせいただいた内容からいくつかご紹介を。

避難所はどこ??

一番問い合わせが多かったのが、「次に地震が起こったときにどこに行けばいいの?」という質問。特に自分の災害時避難所の場所を教えて欲しいという問い合わせをよく受けました。

それこそ普段から気にしておいて欲しいのですが、天王寺区の場合は全家庭に防災マップを配布していますし、毎年広報紙の8月号で防災特集を組み防災マップを掲載しています。もちろん区のホームページにもPDFで掲載しています。
ほぼどこの自治体でもホームページでもそういった情報は掲載しているので、まずは確認して家族で情報を共有してください。

大阪市の場合、「大阪市防災アプリ」をiOS版、版ともにリリースしており、こちらでも防災マップを確認することができます。
大阪市以外であれば「防災情報 全国避難所ガイド」をにダウンロードしておくことをおすすめします。

大阪市防災アプリ

大阪市防災アプリ
開発元:NTT Resonant Inc.
無料
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ただ誤解がないようにしておいて欲しいのですが、「地震が起きたらすぐ避難所へ」というのは誤りです。マンションなどは耐震化が進んでおり、自宅の方が安全ということも少なくありません。自宅で地震にあったら、避難所に向かうことよりも自宅避難をまず最初に考えてください。

避難所は全ての方を収容できる訳ではありません。備蓄も同様です。
そのため、天王寺区ではマンション防災に力を注いでいるんですが、それはまた別の機会に。

備蓄について誤解していませんか?

地震後、コンビニやスーパーでは水や缶詰のような非常食、カセットコンロなどが品薄と報道されています。友だちのツイートではカロリーメイトも売り切れていたとの情報も。
昨日も区役所に非常持ち出し用の防災袋などについて問い合わせがありましたが、災害時の備蓄に関しても落ち着いているときにもう一度考えて欲しいなと思います。

備蓄について書き出すとただでさえ長い文章が終わらなくなってしまうので、食料とライフラインに関してだけにします。

災害用の備蓄というと、保存性の高い缶詰やカップ、ミネラルウォーターの確保に目が行きがち。概ね1週間分の備えをと言われていますが、災害用非常食を家族分そろえるのは大変です。

ですが、考えてください。なぜ、食料を備蓄するのか?被災時に食べ物の確保が難しくなるから、ですよね。
「災害時に非常食を食べないといけない」という考えになってしまっていませんか?

今、家庭内備蓄でおすすめされているのが、普段から多めに食べ物を確保して食べた分を補充するローリングストック(循環備蓄)という考え方。

災害はいつ起こるか分かりません。だから「○年保存できる」という非常食を備えても、その期間に災害が発生するとは限らず、保管していることを忘れて気がついたら賞味期限、消費期限が切れていたということでは意味がありません
賞味期限がそんなに長くない食べ物であっても、災害が発生したその瞬間にそれがあれば非常食になり得ます。

缶詰など熱を加えなくてもそのまま食べられるものも一定数用意しておくと良いのですが、最近ではお弁当用のおかずで自然解凍で食べられる物があるので、その辺りを冷凍庫に備えておくと捗ります。

私は「パーソナルストック」なんて言っていますが、好きな物を自分の手の届くところに置いておいて、例えば週末、月1回とか決めてそれを食べる。食べたら、その代わりにまた食べたい物を買い置きする。
「備蓄」だなんて思わないくらいの「パーソナルストック」を家族それぞれでやってみるのはいかがでしょうか?

水については1日1人3リットル必要と言われています。断水時にはこれ以外にも生活用水が必要になってくるので、地震が起こるとミネラルウォーターがコンビニなどから消えるのはよく分かります。

が、飲用に限れば「水」にこだわらなくても構いません。麦茶などのノンカフェイン、無糖の飲料がベストですが、好きな飲み物を食べ物と同じようにストックしておけばOKです。

大切なのは「(できれば意識しないほど)楽に続ける」ということ。
災害時避難所にあなたの好きな食べ物、飲み物は置いてありません。

電気、ガス、水道などのライフラインについてはすぐに復旧しません。
特にガスについては、水道や電気と比べて安全確認が難しいのでおくれる可能性があります。実際、今回の地震でも大阪ガスでは25日(月)を完全復旧のめどとしています。

ガスコンロを買っておきたいところですが、マンション住まいだとキッチン以外で熱源を使えないことから、「使わない備蓄」になりそうなのが難しいところ。
ライフラインの復旧は、電気がまず回復するので、電気調理器に頼り、ガスコンロ・ボンベの備蓄は最小限にするという考え方もあります。

電気については、天王寺区の避難所に配備している折りたたみ可能なソーラーランタンが優れもの。これは私も自宅用に一つ買おうと思っています。
スマホは連絡なども含めて絶対に必要なので、モバイルバッテリーをお持ちでないかたは買っておくことをおすすめします。私は大容量のこちらを買おうかどうか悩み中。

ブロック塀の補修などについて

地震でブロック塀が倒れ命を失った方がでていることもあって、相談窓口の問い合わせが結構来ています。

大阪府が相談窓口を設けていますので、相談事があればそちらへお願いします。(政令市は相談の対象外ですが)

家族の連絡手段を用意しておこう

過去の震災時にも言われていましたが、災害時には電話が通じにくくなります。
今回も発災後しばらくは府内への電話がほとんど通じないという状況がしばらく続きましたが、LINEやFBメッセンジャーなどは問題なく使用できていました。

NTTが運用している災害伝言ダイヤル(171)毎月1日、15日(その他正月など)に体験利用ができるようになっています。

あまり知られていないかもしれませんが、LINEで現在地をメッセージで送る機能があるのを知っていますか?

入力欄の左側にある「+」から「位置情報」を呼び出せ現在地を画像データで送信することができます
家族間でグループを作っておいて、いざというときは位置情報を送るだけでも安心感に繋がるかと思います。

見えづらいことを見えるように

地震からまだ一週間経っていません。

大阪市内はすっかり平常運行になっていますが、これから天王寺区の真上を走っていると言われている上町断層帯による地震が発生する危険性は常につきまとってきます。大阪に限らず、地震が「起こるかもしれない」を排除して生活するのはあまりにも危険です。

この地震を通じて、役所がやっている防災の取り組みは見えづらいんやなと改めて思いました。この機会に、今年はその見えづらいを見えるように元広報担当としてしっかりと発信していきたいと思います。

他の自治体でもやっておられるとは思いますが、区役所で出前講座があり防災関係も受け付けています。今年は特に全力で努めたいと思っていますので、ご用命がありましたら区役所までお問い合わせください。
……天王寺区以外の方は個人的にお問い合わせくださいませ。