キャラメルボックス「彼は波の音がする」 キャラメルボックスの全ての魅力が詰まった最高のゴーストストーリー

彼は波の音がする、彼女は雨の音がする

これぞ! というお芝居を観てきました。
終演後に既知のスタッフに「これ、ウチめっちゃ好き」っていうくらい

東京公演では日を追うごとに当日券のお客さんが増えて、かなり大好評だったというお芝居。一番の話題は、福澤”ジャストミート”朗さんが出演すること。フリーアナウンサーというイメージしかない人も多いでしょうが、日本テレビに所属されていた12年前に福澤一座として2回公演を打っておられるですよね。
気にはなっていたんですが、まぁ東京公演しか当然なかったので観られなかったんですが。

キャラメルボックスらしさの詰まった「彼は~」

舞台俳優の新宮弘樹は、新作のオーディションを受けて、見事に合格。
しかし、撮影初日の朝、オートバイの事故で死ぬ。
ところが、迎えに来た天使の話から、人違いだったことがわかる。
弘樹は「生き返らせろ」と天使に迫るが、彼の体は既に火葬された後。
天使は「もうすぐ死ぬ人がいるので、その体に入れ」という。
それは、大企業を経営する浦神信雄という男の体だった。弘樹は3日でイヤになり、天使に別の体を要求する。
が、ある日、浦神の屋敷に、白浜若菜という女がやってきた……。

ん、ちょっと公演案内のストーリーとは細部が違ってきているかも。

物語は、キャラメルボックスお得意の一つ、ゴーストもの。
二級天使の過ちで死んでしまう舞台俳優の主人公新宮弘樹(畑中智行さん)を、地上の監視所の副所長を務める天使アルタイル(福澤朗さん)が地上へと戻し、死の間際の老人の体に魂を入れ替える。

キャラメルボックスの過去のお芝居では、「クローズ・ユア・アイズ」や、「ウルトラマリンブルー・クリスマス」のように天使が登場するものがあって、その設定はこの新しい物語にも引き継がれています。
福澤朗さんが演じる天使アルタイルは、これらの作品に登場した天使の上司(監視所の副所長)でとても有能な天使という設定。てきぱきと新宮のわがままに答えつつ、アナウンサーらしいはっきりとした発声で台詞の一つ一つがとても聞きやすく、これまでの天使とはまた違った魅力を振りまきます。

死者に起こる”スコシ不思議()”なストーリー回しはまさにキャラメルボックスの真骨頂。老人の体に入った若い新宮の魂が起こすコミカルなシーン、老人になってしまった新宮がそれでも友人の映画に出たいと友人を説得してしまうストーリーの良い意味での荒っぽさ、そしてヒロインの白浜若菜(実川貴美子さん)との”ボーイミーツガール”。
そして……

これだよなぁ……笑って、ワクワクして、ドキドキしている心をこの一瞬で揺さぶって掴む。
四半世紀も前に「ハックルベリーにさよならを」「不思議なクリスマスのつくりかた」「ナツヤスミ語辞典」などの作品で知った「演劇ってホントは面白いんだ」という思いを、今でも変わらずに思い起こさせてくれるまさにキャラメルボックスなお芝居です。

サポーターには嬉しい小ネタも一杯

キャラメルボックスのお芝居を観たことがない人にも間違いなくお薦めできる作品なんですが、過去の作品を観たことがあったりすると楽しい小ネタは今回も一杯。

主人公が出演しようとしている映画は、「風を継ぐもの」から始まる新撰組一足の速い男・立川迅助シリーズの外伝のようなストーリーだし、植木鉢が落ちてくるスローモーションシーンで、クーラーの室外機を落とすべきというネタは「時をかける少女」だし、主人公がジャグリングを得意にする理由を聞かれて、お芝居でやらされたというネタはきっと「トリツカレ男」だろうし、キャラメルボックスのお芝居を知っていれば知っているほど、にやっとできるネタは随所に隠されています

脇役だってその世界を生きている

たった2時間で描く物語に、脇役やほんのちょい役の人ですらも「その世界で生きている」という実感を持てるのがキャラメルボックスのお芝居です。

主人公の新宮が体に入り込む浦神信雄(西川浩幸さん)はもちろん、強すぎる養父の力に怯えながらも少しずつ変わっていく浦神仁一(鍛治本大樹さん)、その夫を強烈なパワーで引っ張る奥様・浦神優花(林貴子さん)、彼らに使える道成寺澄子(小林春世さん)の浦神家の人々は強烈にその生き方を訴えますし、

ヒロインの母・白浜邦子(大森美紀子さん)は、浦神信雄との関係性と今の自身、そしてこれからを短いシーンで描いて素敵です。

そしてサイドストーリーとして、個人的に胸にズシンときたのは映画監督の串本欣也(三浦剛さん)。主人公と自身の映画を作り上げるつもりが直前で死なれ、絶望の縁にある彼の前に浦神信雄が現れ、そして……串本にとってのラストシーンの心の揺れと、を浴びるほど飲みたいという台詞はたまらなく愛おしいです。彼の作る映画「打ちよせる波のように」観てみたいです。
あ、立川迅助シリーズなんだから、そのうち芝居になるに違いない。そうに違いない。

一本観るともう一本観たくなって仕方がない

今回の作品は2本立て。しかも、「彼は波の音がする」が死んでしまった新宮側からの視点なら、「彼女は雨の音がする」は生きているヒロイン・白浜若菜側からの物語。
生きている側からは当然のことながら天使なんて見えないし、目の前にいる男性の体に若い男の魂が入り込んでいるなんてことは分かるはずもない。

「彼は波の音がする」を観ると、そんなもう一つのストーリーを観たくなってしかたなくなってしまいます。それぞれのオープニングソング、エンディングソングが2つの物語で交差していたりする仕掛けも面白いです。
個人的には白浜若菜を演じる実川貴美子さんの声が大好き(ショートカット好きなのは当然ですが)で、舞台上の白浜若菜に恋しちゃってるので観に行くしかないです。

さ、これを書き上げたらサンケイホールブリーゼへ、「彼女は雨の音がする」を観に行ってきます。
天使の福澤朗さんのテレビのお仕事の関係から、大阪公演は今日、明日の土・日曜日は「彼女は雨の音がする」、週明けの月・火曜日は「彼は波の音がする」の変則日程。
仕事が無ければ「彼女は雨の音がする」を観てから、もう一度「彼は波の音がする」を観たら最大限楽しめると思うんだけどなぁ。

公演名 「彼は波の音がする」
公演期間 [東京]2016年7月30日(土)~8月14日(日)
[大阪]2016年8月18日(木)~23日(火)
場所 [東京]サンシャイン劇場
[大阪]サンケイホールブリーゼ
サイト 公演公式ホームページ