
参院選の代休を取って週末を三連休に。キャラメルボックスの劇団創立40周年記念公演を観に行ってきました。
今回は人気作「さよならノーチラス号」と新作「ナナメウシロのカンパネルラ」の2本立て。以前と比べるとチケットの費用もあがったので、嬉しいと思いながらもお財布には厳しい。
……なんて思いつつも、お祭りだしねと、タンスから30周年記念のTシャツを引っ張り出して、わっくわくでサンケイホールブリーゼに向かいました。
「さよならノーチラス号」
新人作家の星野タケシは、作家専業になることを決意し、会社を辞めて、都内にマンションを買った。引っ越しの日、編集者の森真弓が手伝いに来る。真弓がダンボールを閉じようとして、ふと中を覗いてみると、ブリキでできた潜水艦が入っていた。「これは何?」。真弓の問いに、タケシが語り出す。15年前、父が経営する土建会社が倒産し、タケシの一家は夜逃げした。小学6年だったタケシだけは、近所の叔母の家に預けられた。半年後、タケシは家族と夏休みを過ごすため、夜逃げ先へ行く。そこは古びた自動車整備工場の二階で、一階には大家の根本さんと飼い犬のサブリナが住んでいた。ある日、サブリナがタケシに話しかけてきた‥‥。
初演は1998年、再演は2009年の人気作……え、もう16年前ですか…… 初演は子どもが生まれてすぐだったので、観劇を控えていた時期で映像でしか見たことないのですが、上川隆也さんのダンスが格好よくて再演時は観に行くのが楽しみで楽しみでしょうがなかったことを覚えています。
再々演の今回は再演時にタケシを演じた多田直人さんが勇也、その弟の芳樹を鍛治本大樹さんが演じる他はキャストが変わっています。 この作品のキーパーソン?キードッグ?のサブリナが変わっているのは仕方がないよなぁと感じながらも、開演までは不安半分でした。まぁ、終演後は……
なんですが。
そんな初演や再演から「さよならノーチラス号」を知っているサポーターからすると、タケシの「自由とは何か!?」の冒頭の言葉から、「♪ドゥ~ドゥッドゥ」とSCUDELIA ELECTRO「GOOD BYE NAUTILUS ~さよならノーチラス号~」のイントロが流れてきただけで血が沸き立って、もう前のめりになってしまいます。
しかもダンスは初演ベースのもの(少し違うのかな?)で、さらに前のめりに。サーチライトの様な照明も美しく、どこか笑顔を浮かべながら一所懸命に踊る演者を見ているとこちらも笑顔になってしまいます。 ……最近の子はダンスが本当にうまいなぁ……などと思ってしまうあたりじじいまっしぐらですね。
脚本・演出の成井豊さんの「私戯曲」だというこの作品。自身が苦しかったり積もっていた思いを物語に昇華させたこの作品が私も大好きです。
ちょっと不思議で、面白くて、苦しくて、でも最後まで観ていたらなぜか元気づけられる。自身が歳を重ねれば重ねるほど、タケシが感じた気持ちが愛おしくて、その苦しさも深く感じられるようになります。
「世の中に取り返しのつかないことなんて一つもないんだ」
キャラメルボックス自体も休団したり、運営会社が破産したり、苦しい時期を過ごしてきました。演者や関係者の方々も色々と思うところがあるでしょうね。取り返しのつかないことはない、誰でもそうであってほしいものです。
それにしてもやっぱりサブリナを演じた石森美咲さんが本当に可愛くてたまらなかった。老犬ということで当然台詞は少ない(犬なのに少ないってのおかしいですよね)のですが、勇也やタケシの周りを走り回って所作の一つ一つに意味があって見てて飽きません。
どのキャストもぴったりとはまっていて、今のキャラメルボックスとこれからを支えるのは今舞台にたっているこのメンバーなんだと思いました。全員が素敵でした。
ナナメウシロのカンパネルラ
東京都調布市の交差点で交通事故が発生。
横断歩道を渡っていた花巻みねりにトラックが突っ込んできたが、後ろを歩いていた小山田登がみねりを突き飛ばし、代わりに命を失った。
3日後、みねりの耳に、見知らぬ男の声が聞こえた。
男は「小山田登」と名乗り、僕はあなたの身代わりになって死んだのだから、あなたに僕がやり残したことをやってほしいと言う。
小山田の姿は見えず、声はみねりにしか聞こえなかった。
彼は出版社に勤めていたが、もともとは小説家志望で、仕事の傍ら書き続けていた。
今も完成直前の作品があり、このまま諦めるのは辛いので、僕が続きを口で言うから、あなたに書いてほしい。
みねりは渋々承諾するが、小山田の要求は一つでは済まなかった‥‥。
新作は成井豊さんが得意にしているゴーストストーリー。
みねりを救って死んでしまった小山田の声は、みねりだけにしか聞こえない。成仏する前にと叶えたい思いを伝えて、みねりが渋々それに協力する。
演じるのは岡内美喜子さん、筒井俊作さん、大内厚雄さん、前田綾さんといったこれまでのキャラメルボックスを支えてきたメンバーに、「さよならノーチラス号」とどちらの舞台にも立つ多田直人さん、鍛治本大樹さん、原田樹里さんという今の主力メンバーたち。
特にみねりや小山田はキャストに合わせた当て書きですよね…… 周年記念の作品らしい劇中劇や過去の作品をスパイスに、初めて観る物語なのに安心感を感じます。
登場人物一人一人の思いが錯綜して、それでも一人一人が真剣に人を思っていて、見終えたあとは登場人物のこれからを応援したくなる、そんな物語です。
久しぶりに舞台上でその姿を見るみねりを演じた岡内美喜子さんは本当に美しかったです。憂いを抱えて荒川の河川敷で座っている姿は、物語の中での12年だけでなく、実際に歳を重ねていく美しさがありました。
今すぐ「夏への扉」のピート役を見たくなる筒井俊作さんの姿、真面目な顔でぬるっとボケを重ねる大内厚雄さん、キリッと物語を締める前田綾さん、キャラメルボックスの作品では欠かせない語り手の多田直人さん、「さよならノーチラス号」と役どころが違ってそれぞれの魅力を見せる鍛治本大樹さん、石森美咲さん、原田樹里さんと、これまでのキャラメルボックスを支えてきたキャストもまだこれからのキャラメルボックスに必要なんだと感じました。

2作品同時に上演することで、これまで、今、これからのキャラメルボックスをたっぷり感じました。
あぁ、元気出た。明日から、また仕事頑張ろう。
冬にまた観に行けることを楽しみにしています。
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