“この物語の登場人物の中に、きっとあなたがいたと思います。” 加藤昌史(公演パンフより)
1959年にアメリカで発表されたSF小説の名作中の名作「アルジャーノンに花束を」。
「24人のビリー・ミリガン」「五番目のサリー」などの作品でも知られるアメリカの作家、ダニエル・キイスによって生み出されたこの作品は、世界的なベストセラーであり、過去に何度か映像化されています。
日本でも舞台化されたり、2002年にはユースケ・サンタマリア主演でTVドラマになったこともあります。
私がこの作品に初めて接したのは高校1年生の時。
主人公チャーリイが書く経過報告書という表現方法に衝撃を覚え、そしてそのラストに、 呆然としてしばらく立ち上がることができませんでした。(当時は物語を読んで泣くことはなかったのですが、本を読み終えて呆然とするということは度々ありました。)
そんな、作品をキャラメルボックスが舞台に。当然、行かなければ。なのですが、なかなか考えさせられる舞台でした。
パン屋で働くチャーリイ・ゴードンは、今年で32歳になるが、幼児なみの知能しかない。が、心の底から賢くなりたいと思っていて、知的障害成人センターに通い、読み書きや計算を習っている。ある日、チャーリイはビークマン大学へ行き、心理学のテストを受ける。そのテストに合格すれば、頭がよくなる手術が受けられる。実験室にいたハツカネズミのアルジャーノンは、その手術のおかげで、複雑な迷路をあっという間に通り抜けられるようになった。僕もアルジャーノンみたいに賢くなりたい! テストの結果は合格。チャーリイは手術を受けることになるが……。
知的障害を抱えるチャーリイを演じるのは、今や劇団の中心的俳優になった阿部丈二さんと前回の公演「無伴奏ソナタ」で驚異的な存在感の主人公を演じた多田直人さんのダブルキャスト。昨日の夜は阿部丈二さんが主演のイグニスキャストでした。
舞台には机と椅子。チャーリイはノートに報告を書き、舞台上にはその報告書の文章が浮かびます。その文章はひらがなと数字のみ。助詞が使えなかったり、拗音が抜けていたり 、不十分な文章がチャーリイのその時点での能力を如実に表します。
小説では報告書の文章の違いがチャーリイの変化を刻々と描くのですが、舞台上では阿部丈二さんの演技が刻々と変わって行きます。見開いた目、一定しない視線、整わない背筋、緩い笑顔、それでいてなぜか親しみやすいチャーリイが、物語が進むについて自然と理知的な目、冷たい視線、ピンと伸びた背筋、消えた笑顔のチャーリイに変わっていきます。
その変化があまりにも自然で、物語の大きな波にあっという間に飲み込まれてしまいます。
そして終盤。急速的に物語はスピードを増して、一気に観ている者の涙を誘います。チャーリイとハツカネズミのアルジャーノンに訪れる変化はあまりにも過酷です。物語を閉じるのは小説と同じ言葉。たどたどしいチャーリイの報告書にかかれる追伸が胸に突き刺さります。
原作が好きな人にも絶対に失望させない素晴らしい舞台だと感じました。
公演は8月24日(金)まで。公演の詳細は劇団のホームページで。
ここからは私の個人的な事情です……この舞台、私は周りに座った観客と同じくらいのタイミングで泣くことができませんでした。
普段ならば、終演後はロビーで見知ったスタッフの方に声を掛けたり、同じ日に観に来ていた友人を探したり、新神戸からの帰り道を鼻歌交じりに帰ったりするのですが、この日は胸一杯に何かがつまってしまったようになって実は三宮までの道をどう歩いたかさえも覚えていません。
私には一人の息子と一人の娘が居ます。娘はキャラメルボックスの舞台や、他の場所にもよく連れて行っているので友人にも良く知っていただいているかもしれません。
ですが、息子はキャラメルボックスの舞台に連れていったことはありません。もしも連れて行っても、私がこの日座った1階のセンターに座ることはできません。おそらく2階席の最後列、扉に一番近い席に座ることになり、そして物語を終えること無く席を立つことになると思います。
舞台を観ながら、私は拳を痛いほどに握りしめていました。
チャーリイの母・ローズの慟哭が耳に張り付き、父・マットの哀しみにどうしようもなくなりました。
いつ泣いたのかは分かりません。拭うこともせずにカーテンコールが始まっても、涙が溢れてしまいました。 原作がどういう物語か知っているにも関わらず、舞台上で演じられる演技の一つ一つに動けなくなりました。
この物語の登場人物の中に、ローズやマットとして私はいました。
娘にも観てもらうべきなんでしょうか。まだ結論を出せない自分が居ます。
土日にも一人で行こうかなと思っていたのですが、物語を受け止めるだけの自信がなく、結局今日はうだうだと家で過ごしてしまいました。
千秋楽は24日(金)。もう一度伺って、物語を受け止めたいと思います。
……余談ですが、劇団員のキャラメルボックス以外でのお仕事情報が劇場では張り出されているのですが、社長の加藤昌史さん( @KatohMasafumi )の情報が可笑しすぎます。
どっちかというと、みうたんパパ( @miutanpapa )さんとしての活動なんですが、劇団員の方々の活動との違いについ笑っちゃいました。
ついしん かーてんこるのおおうちさんのぐだぐだなあいさつはぼくをすくてくれました。みてるひとをげんじつにもどすとてもよいあいさつとおもた。ありがとう。