写真(仮面山荘殺人事件)

「仮面山荘殺人事件」ミステリの舞台化はこうじゃなくっちゃ!

写真(仮面山荘殺人事件)

写真(仮面山荘殺人事件)

台風19号の動員体制が思ったよりも早く解除、区内の被害もなくホッとしつつも関東の状態が気になる日曜日。

睡眠十分で、舞台「仮面山荘殺人事件」を観てきました。

東野圭吾さん原作で、原作はけっこう前に読んだもののうろ覚え。「容疑者Xの献身」のときもそうでしたが、「オチの分かっているミステリ」を観に行くってのは不安なもの。
それでも、脚本・演出が成井豊さんってだけで謎の安心感があるんですよね……

王道ミステリに見せかけて

製薬会社社長の森崎伸彦が所有する山荘。
交通事故で亡くなった社長の娘・朋美を偲ぶため、
婚約者の樫間高之、従妹の篠雪絵など、8人の男女が集まってくる。
そこへ、逃亡中の銀行強盗が侵入!
外部との接触を断たれた8人は、何度も脱出を試みるが、
ことごとく失敗に終わる。
恐怖と緊張が張り詰める中、ついに1人が殺されてしまう。
しかし、現場の状況から考えて、犯人は銀行強盗ではありえなかった。
残された7人は極限状況の中、犯人探しを開始する……。

銀行強盗に占拠された山荘が舞台、ある意味特殊な「嵐の山荘」状態というミステリの王道から繰り出される予想外の結末。
東野圭吾さんらしい驚きのある物語で、何より描かれているのは「謎」ではなく「人」。

「容疑者Xの献身」も正にそうでしたが、東野圭吾さんの書く物語には「人」の生き方が丁寧に記されているように思えます。

婚約者・朋美を失った高之が招かれた山荘で、彼女の死を殺人だと疑うものが現れ、銀行強盗に押し入られ、一人の女性が殺される。
朋美との物語と、現在の山荘の物語を交互に進めることで、物語への没入感が高めるとともに、「犯人」が暴き出されるラストまで観ている人を全く飽きさせません。

全方向に嬉しい出演者

5月に活動を休止した演劇集団キャラメルボックス。休団後、不安になっていたサポーターに発表されたのがこの「仮面山荘殺人事件」でした。キャラメルボックスからは5人の俳優が出演しています。

特にお人好し感あふれる木戸信夫を演じた筒井俊作さん、朋美の母を演じた坂口理恵さんは、キャラメルボックスで演じられていた時のような立ち居振る舞いで「おいおい、やりすぎじゃないの?」と思いつつも、キャラメルボックスのサポーターとしては嬉しい驚きでした。

観客はキャラメルボックスよりも、主演の木戸邑弥さんやダブルヒロインと言っていい朋美の平野綾さん、雪絵の伊藤万理華さんのファンの方がはるかに多かったと思うのですが、木戸の道化っぷりには大きな笑いが沸き、終演後、帰宅しようとした私の耳に「あのお母さん役の人良かったよね」なんて言葉が聞こえてきて、こちらもちょっぴり嬉しく感じました。

私はというと、朋美と雪絵の二人ともとにかく姿勢がすごく綺麗で、登場シーンはずっと目を離せませんでした。朋美は(物語中では)バレエをやっていたということで、その友人の雪絵もバレエをやっていたのかなぁと思えるくらい立ち姿が素敵で、朋美はそのうえで足に怪我を負っている杖をもっての動きがまた素敵でした。
舞台を観る前は、平野綾さんは「あぁ、涼宮ハルヒの声優さんだなぁ」と、伊藤万理華さんは「乃木坂だった人でしょ」くらいの印象だったんですが、お二人ともまたどこか違う舞台に出演されるときに観てみたいなぁと思いました。

生の舞台が素敵なのは、こんなとこだよね……ヒロインの二人や木戸邑弥さん、そうそう朋美の父親・伸彦を演じた辰巳琢郎さんのファンの人にもキャラメルボックスの俳優さんに興味を持ってもらってたら、いいね。

成井豊さんはすごい

仮面山荘殺人事件月並みな感想ですが、とにかく「成井豊さんはすごい」
脚本・演出の成井豊さん。キャラメルボックスでも数々の原作物を手がけておられるんですが、とにかくハズレが無い
漫画や小説の舞台化、映画化というと玉石混交、特に「玉」になるのは少なすぎってくらいのイメージ……そういやドラクエの映画化は本当に酷かった……

小説から舞台化にするには、小説で描かれていることを全て盛り込む訳にはいかないので、当然、台詞やシーン、時には設定がカットされるのは当然なんですが、そのカットの仕方が実に適切。しかも時には小説では行間に埋もれてしまう脇役の物語を加えてしまう。

この「仮面山荘殺人事件」では、シーンごとに語り手が変わっていくことだったり、高之と朋美の回想シーンできちんと伏線を張っていたり、「ここを取ってしまうと物語のうま味が薄れてしまう」って所は絶対に取られていません。
前述した筒井さんの大仰な演技や、最初なんだか台詞がギコチなく思えた辰巳琢郎さんの様子も、ラストのどんでん返しの伏線だったのかもしれないと思えてしまいます。

ホントすごい。好きな小説があって、それを舞台にあげるまでの成井さんの頭の中を覗いてみたくなってしまいます。

「脚本・演出 成井豊」これが書かれている原作物は、もう超絶に期待して結構だと思います。来年2月には「おおきく振りかぶって」の第3弾もやるので、もしも原作ファンで舞台は観てないって人は、ぜひ安心して観に行けばいいよ、いや、本当に。