三上延「ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~」美しい物語には、美しいラストシーンが良く似合う


夏目漱石の『それから』のことを話してくれませんか? どういう話なのか、できるだけ詳しく知りたいんです

美しい物語には、美しいラストシーンが良く似合います。
死んでしまった祖母から受け継いだ夏目漱石の「それから」を通じて現れた物語から始まった「ビブリア古書堂の事件手帖」、この7巻をもって無事完結しました。

ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく。
奇妙な円に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌まっていくのだった……。

最終巻7巻の題材はシェイクスピアの作品。といっても、作品そのものよりもファースト・フォリオであったり、ファクシミリといった書籍がどう作られて、どう受け継がれてきたのかというトリビアとともに、これまで描いてきた栞子さんの家族と、本にまつわる因縁を解きほぐしていく物語になっています。

1巻の頃は、一つ一つの作品をモチーフに、登場人物の物語を絡ませる連作短編集という仕組みでしたが、最後まで物語に関わることになる太宰治の「晩年」のアンカット本にかかる事件が起こってからは、古書に携わる人や古書そのものも代勢に物語を紡いできました。
本を読むことができないという特異体質の五浦さんと、本の虫である栞子さんが付き合うようになってからは、ちょいとそういった本に関わる要素が薄まってしまったのは残念でしたが。

妹と暮らす栞子さんが抱える複雑な家族の縁は、巻を進めるごとに徐々に明かされ、今回の最終巻でも、相変わらずの「ラスボス感」をまとった母親との対決シーンはなかなかの見物です。
五浦さんと栞子さんのラブコメ要素は薄めで、母親である智恵子との関係が丁寧に描かれラストまでグイグイと読ませます。

シェイクスピアのファースト・フォリオを母と競り合った後に訪れるクライマックスで、母娘の耳打ちが描かれるのですが、その言葉のやり取りは直接表現されることなく、最後まで母娘の関係性、距離感がくずされない辺りが本当に巧いと思います。

物語の最後、エピローグの中でその時の言葉は栞子さんから明かされ、そして五浦さんと栞子さんの二人のシーンで物語は閉められます。

栞子さんは本の表紙を開いて、俺の顔を見上げる。そして、リラックスした区長でなめらかに話し始めた。

美しい物語には、美しいラストシーンが似合います。
このラストシーンが「ビブリア古書堂の事件手帖」の物語には最適です。

テレビドラマ化など大ヒット、派生作品も多数現れたこのシリーズですが、この後も実写とアニメで映画化が決まっているとのこと。この物語を知る人がまた増えるのはいいですね。

「本を好きになる」物語、本当に最後まで楽しませて頂きました。