「corich 舞台芸術!」という演劇の口コミサイトがあります。
サイトのデザインも使い勝手も正直悪くて、口コミサイトとしてはジャンルは違いますが「食べログ」や「トリップアドバイザー」みたいにちゃんとサイトを育ててくれよと思ったりするのですが、チケット管理のシステムを提供しているので学生演劇から小劇場での商業演劇まで、劇団側が使っているケースが多く、見に行ったことのない劇団など「なんか面白そう」ってお芝居を見つけるのに使っています。
月1くらいで、そんなお芝居を見に行こうと思っていて、今回目にとまったのがyhsの「しんじゃうおへや」というお芝居。日本橋のインディペンデントシアター1stで上演されますが、yhsはなんと札幌の劇団。
第1話、執行の予行演習を行う刑務官たちの葛藤と衝突。
第2話、執行装置の修理にやってきた3人の電気工事士のパニック喜劇。
第3話、この部屋がどこで、自分が誰なのかを尋ね続ける男と、それから逃げ続ける女、そしてそれを取り巻く人々。ラストシーン、3つの物語が重なる時、一つの真実が浮かび上がる。
死刑を巡り、人間の存在を探る、社会派エンターテイメント。
「しんじゃうおへや」なんてタイトルと、オムニバスドラマという形態だけを情報にインディペンデントシアター1stへ。
普段は札幌を拠点に活動されている劇団さんなので、全くの前知識なしで、劇団代表で脚本演出の南参さんの前説を聞いて和んでいるんですが、舞台を見ると天井からつり下げられた縄。そう「しんじゃうおへや」ですもんね。
物語は3部構成。最初の第1話の舞台は死刑囚の死刑執行の前日に予行演習を行う刑務官の物語。
初めて執行に望む刑務官や、何度も刑の執行を行ってきたという先輩刑務官。
死刑を前にそれぞれの刑務官の思いがぶつかりあって、ガンガンと観ている側に叩きつけられます。最後の最後で、その場をまとめる課長が取った行動に緊張感が高まります。
第2話は死刑執行の翌日の物語。電気系統の故障でやってきた3人の電気工事士が、執行室に閉じ込められてしまって……
このパートはちょっと喜劇なところもあるんですが、閉じ込められた3人が、「怖いもの」の話をし始めちゃうあたりはなかなか深かったりします。
そして第3話。部屋で目覚めた男の目の前に現れた女性。
「前にどこかで会った……」思い出せないまま、その女性は男から逃げ、そしてさらに男の前に現れる刑務官……
札幌演劇シーズン2016-冬の一作品として上演されたこのお芝居。なんというか……かなりキツいです。初演は裁判員制度が始まった2009年、2010年に再演され、今回が再々演。死刑執行に携わる刑務官、死刑に望む死刑囚、そして死刑囚に絡む一人一人との絡み。
これだけド直球で挑みながら、観る側が逃げない、気がつくと手に力が入って前のめりに舞台に入り込んでしまう、そんなお芝居を観るのはもしかしたら初めてかもしれない。
これ、こういう機会でないと自分ではなかなかチョイス出来ないお芝居で本当に大正解でした。
すぐにもう一度観たいかと言われると「いや、かんべん」なんだけど、たぶん時間が経てば経つほど、もう一度見に行ってみたいお芝居かもしれません。
重要な男を演じる小林エレキさんのお芝居がとにかく圧巻。
叫び、汗を流し、涙を流し、狼狽し、悶絶し、怒る。その姿を気持ち悪く思って、恐怖を感じているのに目が離せない。この存在感がこのお芝居の大きな幹になっています。
個人的には右手の手のひらを神経質に触ったり、首筋をさすったりする行動にとてつもない存在感があって、ものすごく好きな演技です。
刑務官の一人を演じる能登英輔さんの演技もすごいです。第1話のピリピリとした格好良さと第3話の小林エレキさんとの対峙は目が離せません。いや、ホントに。
重たいテーマのお芝居の中で、個人的には女性刑務官の青木玖璃子さんがウザくて可愛かった。長身、メガネっ娘、制服……うん、それだけでツボです。
終演後には「Piper」の大王・後藤ひろひとさんをゲストにアフタートーク。
お芝居よりも南参さんが大阪観光で気づいた「大阪のえげつなさ」と、後藤ひろひとさんが北海道でもっとも美味しくない食べ物という「ホンコンやきそば」の話で大盛り上がり。札幌から持ってきた「ホンコンやきそば」争奪じゃんけん大会で締めました。
いやぁ、好きなお芝居というのではなくて、本当に良いお芝居を観ました。
ぜひ今度大阪に遠征される時には、yhsの得意技というコメディをひっさげてやってきて欲しいです。違うタイプのお芝居も観てみたいと本気で思った夜でした。
公演名 | しんじゃうおへや |
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公演期間 | [札幌]2016年2月6日(土)~13日(土) [大阪]2016年3月12日(土)・13日(日) |
場所 | [札幌]コンカリーニョ [大阪]in→dependent theatre 1st |
サイト | 劇団公式サイト / Twitter / facebook |
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