CW-Note:新しく査察指導員になった皆さんへ

CW-Note:新しく査察指導員になった皆さんへ

先日、勤め先の内部研修で新任査察指導員の方に「先輩査察指導員の話」というざっくりとしたテーマでお話しする機会があり、そのことをfacebookで呟いたところ、他の自治体の方に「聞きてぇ」と食い付いて頂きました。

この研修の時の話、存外に好評で、他区で生活保護に携わっている方に会ったときに

「があさん、何喋ったん? 研修に行った係長から『あの人面白い』って言われたよ。」

とまで言われる始末。
……いや、面白いこと話したつもりはないんやけど。

まぁ、興味を持って聞いて頂いたのは嬉しい限り。
他の自治体で生活保護に携わっている方にも、何か参考になることがあればと思ったので、その時お話ししたことを面白くは書けませんが、書き起こしてみませう。

概要:3つのコツ

スライド
★今日、お伝えしたいこと

この日の研修は、新任の査察指導員(SV)向け。
2日間の研修で、仕事の内容(医療、経理、介護なども含めて)などはガッツリと本庁の保護課から詰め込まれるという結構ハードな中身。

そんな中、ウチが担当したのは2日目の最後の1時間。ふらふらになっている新任SV向けに、緩く聞いて頂いて、次の日以降の仕事にもしかしたら役に立つかもしれない、やっていけるかもしれないというイメージを抱いて頂くことを目的に、

  1. 進捗管理のコツ
  2. ケースワーカー育成のコツ
  3. 気持ちよく仕事をするコツ

という3点に絞ってみました。もちろん、入門編なのでかなり内容はマイルド。

1.進捗管理のコツ

1-1.進捗管理って?
進捗管理って?

査察指導員になると、仕事としてケースワーカー業務の「進捗管理」を求められます。

ケースワーカーの仕事は見た目以上にハード。
ついつい自身のキャパを超えてSOSを出せずにつぶれてしまったりするケースも少なからずある(最近では横浜市でこんな事例があったり)わけで、そうなるとケースワーカー当人だけでなく、査察指導員やその自治体、ひいては担当している被保護者まで影響があります。

そうならないためにも「進捗管理」は査察指導員にとって進捗管理はものすごく大事。

……なんですが、膨大な個人情報を扱う割に、それを巧く運用する材料が整ってないですよね、という前振り。

情報は一つに
情報は一つに

被保護世帯の情報とかを手持ちの手帳やノートに時系列でメモする方がいますが、それはやめましょうという提案をしてみました。
大阪市だと査察指導簿という被保護世帯の情報をA4に印刷した紙があるんですが、そこに何もかも(例えば、訪問記録を読んで「猫嫌い」といった情報なども)書き込んでしまいます

ちなみにウチは小学校の先生が使うようなスタンプ印を買って、記入を簡略化しています。例えば、足跡は「居宅訪問した」だったりします。

ウチのケースワーカーは大体90~130世帯を担当しています。学校の先生だって、一クラス40人だっていうのに、それだけの世帯の情報を覚えておくなんてことはウチにはできません。

ケースワーカーは査察指導員に「○○さんなんですけど……」と、査察指導員なら知ってますよね? という体でくるので、「あぁ、○○さんなぁ……」と分かったふりをして、査察指導簿を開くとそこに情報がたっぷり。
自身が出張や休暇でいないときにも、査察指導簿見てください! と伝えればOKという状態を作っておけば、自分が楽です←ここ大事

Excelは関数と条件付き書式を
Excelは関数と条件付き書式を

個々の世帯の情報とは別に、全体的な進捗状況を確認するのはExcelで。

他のSVや課長、課長代理など上司も確認できるのがベストなので、共有できるフォルダに保存してます。

ここで大事なのは「見て分かる」こと。背景セルに色をつけて処理が遅れているとか、注意しなきゃ行けないところを強調するのですが、それを関数や条件付き書式でできる限り自動化することで漏れを防ぎます。

例えば、訪問状況を確認するシートなら、「最終訪問日」から今日までの経過日数をこんな関数で自動算出させます。

=if(H2=””,””,datedif(H2,today(),”d”))

もしも、H2セルが空白なら、空白で、そうでないならH2に入った日付(H2)から今日(today())の期間を日数(d)で表示。

次にそのセルを条件付き書式で、180(6ヶ月)以上なら背景を黄色に、365(1年)以上なら背景セルを赤色に設定すると、「この世帯に半年以上訪問してないやん」というのがすぐに分かるという形です。

Excelの関数難しい! という人もいるでしょうが、ウチも一つ一つ「こんなことできひん?」と思って泥縄で勉強しています。こういうサイトとか、Excel 関数逆引き辞典パーフェクトなんかを電子書籍で購入しておいてスマホにでも入れとくと良いですよ。

あ、何でデータベース(MS Access)とか使えへんねんという方もいるでしょうが、ウチが担当から離れた時に後任が同じ事ができるかというのがものすごく大事です。
……まぁ、現場にあるシステムがとても使いにくいってのが一番の問題なんですが。

2.ケースワーカー育成のコツ

2.ケースワーカー育成のコツ
2.ケースワーカー育成のコツ

2つめのコツは「ケースワーカーの育成」について

ケースワーカーの仕事は生活保護の調査や決定手続き、被保護者への指導・指示・支援という福祉全般にかかる専門性のある仕事。

そんな専門性のある仕事を指導監督しなきゃいけないんですが、査察指導員になった方の中には、ウチと同じ事務職員だったり、ケースワーカーの経験が無かったりする人もいます。

任期付きの職員が増えたり、短期間で人事異動があったり、そのくせ全国的には生活保護世帯が増え続けて(大阪市は微減傾向ですが)いるという状態で、ケースワーカーを促成栽培しなきゃいけないというのが今の現状です。

的確な助言を行うためには
的確な助言を行うためには

ケースワーカーに助言するするための土台になるのは、法的な根拠の蓄積です。

現場で日々、被保護者と直接接しているケースワーカーは、被保護者の身勝手な要望にも、どうすれば良いか悩んで査察指導員に助言を求めてきます。その時に、感情・感覚に頼らず、どんな身勝手な要望でも「できる根拠」「できない根拠」をきちんと探ってください。

そんな根拠の蓄積には、あの分厚い生活保護手帳を徹底的に読み込んで……なんていられませから、ウチが作った生活保護通知・通達総索引をぜひ利用してもらえれば結構。
ちなみに、こんなサイトも役に立ちますよ。

そして、査察指導員の方が今まで培ってきた人的資源は最大限に活用してください。
ウチならばケースワーカーになる前は、住民登録・戸籍を担当していました。そのおかげで、扶養義務のある親族を探して戸籍を読み込むのはものすごく巧いです。
それから、ケースワーカーになってから知り合った医療関係者、ケアマネ、ヘルパー、弁護士に警察官。ドンドンと頼ってください。

……と、言うよりも、「生活保護を受けているから」といろんな人がケースワーカーに何でもかんでも要求してきます。入院の同意、失踪した人の部屋の掃除、病院への同行、服薬管理にギャンブルしている人への注意……「俺は○○さんの恋人か父親か!」と思ってしまうこともしばしば。

本来の仕事とそうでないこと、境界線は常に曖昧ですが全部対応していたらケースワーカーも査察指導員も身が持ちません。

餅は餅屋。「繋ぐ」技術をぜひ持ってください。

CWがつぶれないために
CWがつぶれないために

ケースワーカー育成の視点でもう一つもって欲しいのが「ケースワーカーと自分(査察指導員)をつぶさない」こと。

色々な意味で精神的にキツい仕事ですので、ケースワーカーに過度の負担がかからないようにしつつも、ケースワーカーが自身で決めることが出来る力をつけさせてあげてください。

自分が出て行った方が、自分が処理した方がという気持ちは抑えて、ウチは「で、どうしたいの?」とケースワーカーの判断を求めるようにしています。
なにしろ、被保護者と直接接しているのは現場のケースワーカーです。ほとんどが伝聞情報の査察指導員の判断ではなく、ケースワーカーの肌感覚こそが一番正しい(可能性が高い)と思ってしまうのが一番です。

それから、処遇困難なケースの対応はケースワーカーや査察指導員が抱え込まないのは絶対にやるべきこと。ウチの場合は、数ヶ月に1回、ケースワーカーとの個人面談で困っている被保護者の話を聞いたり、ウチは声がそもそも大きいのでケースワーカーとのやりとり、特に処遇困難なケースであればあるほど、他のケースワーカーにも聞こえるように大きめの声で話します。
そうしておけば、担当者がいないときでも他のケースワーカーが対応できたり、担当者の悩みに上司の立場ではなく同僚の立場でケアできます

3.気持ちよく仕事をするコツ

一人じゃない!
一人じゃない!

最後のコツは「気持ちよく仕事をするコツ」です。

査察指導員をする上で技術的なコツをお話しましたが、最後はどちらかというと、新しく査察指導員になる方へのお願いのようなお話です。

この仕事、正直な所、結構キツいです。

自分の親や逆に子どものような年齢の被保護者と相対して、「生活保護から脱却するために」ということを指導、助言するのは本当に難しいです。
まさかと思うような手口で不正受給されたり人間不信にも陥ります。
1日や1年といった区切りがなく、「終わった」感がない仕事です。
被保護者からも、その家族からも、マスコミからも、困窮者の支援者からも、さらには行政の内部からも、罵倒や批判されることは多くても褒められることはほとんどありません。
そして、そんな思いはなかなかケースワーカー以外には理解してもらえません。

そんな仕事だからこそ、「仕事を忘れる、みんなで頑張る」環境を整えてください。
一人じゃない!
新しく査察指導員なった方には、その気持ちをもって仕事についていただければと思います。


 

と、まぁこんな話を1時間弱かけてお話させていただきました。

ちなみにパワポ資料はこんな感じ(20140409SV研修(Web公開版)[PDF])

……役に立つのか、この話。書いてみたけど。

Excelファイルや、この時の音声ファイル聞いてみたいという方が万が一おられましたら、個別にお問い合わせくださいませ。

私がこの記事を書いたよ!

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があ

大阪生まれ・育ち・勤めの雑食系公務員。 福祉職だと勘違いしている人が大多数ですが下っ端事務職。濃い顔付きから沖縄人やらトルコ人やら間違える人大多数。違う、違うんだよ~

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