姫路城に見る観光の勘所

改修中の姫路城
改修中の姫路城

夏休みを使って、姫路に行ってきました。

姫路と言えば、「白鷺城」と呼ばれる国宝で世界遺産の姫路城ですが、2009年6月から「平成の修理」に入っています。
姫路城は一度駅前から遠目に見ただけで、一度も行ったことがなかったのですが、改修中に行ってもなぁと思いながら完全に放置していました。

が、facebookの友人が、先日、姫路を訪れて姫路城について興味深い試みを行っていることを知りました。
……いや、その試みは実は2011年3月から行われていて、完全に周回遅れの話題なんですが

…… とは言え、実際に姫路城を訪れてみて、感じることが大きかったので、今更ながらに話題にしてみようと思います。

姫路城(大手門から)
姫路城(大手門から)

2009年から改修に入っている姫路城ですが、現在は天守閣をすっぽりと素屋根の建物で覆っている状態です。
建物の外壁には天守閣が描かれていますが、見た目に美しいとはとても言えません。

通常、こういった改修工事中の建物は当然ながら改修工事が完了するまで施設見学を停止してしまいます。
ですが、姫路城の改修工事は2015年までと6年近くと長期間。
そんな姫路がとった手段が「天空の白鷺」という方法。天守閣を覆った素屋根の建物を見学施設にして、改修工事そのものを見せてしまおうというやり方です。

見学施設「天空の白鷺」の入場料金は200円。その代わりに入城料を200円引きの400円で見学できるようにしています。
(当初は姫路市は改修中も入城料を下げずにやろうとしていたようですが、それはあまりにもぼったくりでしょう。今の価格が妥当な落としどころだと思います)

天空の白鷺から
天空の白鷺から

「天空の白鷺」は8階建て。天守閣を支える石垣から、鯱を備える天井瓦までシースルーのエレベータでつぶさに見ることができます。
そしてエレベータで上がった8階、7階には天守閣をじっくりと見ることができる展望スペースが用意されています。

当然のことながら観覧を考慮して改修工事をしている訳ではありませんので、既に瓦屋根も白い漆喰で整然と配置されており、鯱も設置されています。
工事は既に内装に移っているのか、作業されている方はチラッとしか見えません。
それを補完するためか展望スペースにはモニタを2台設置して、瓦屋根の補修時や鯱の製造時の映像を流して、目の前にあるものがどうやって作られていっているのかを見せていました。
フランス人の観光客グループが興味深げにモニタと天守閣を見比べているのが印象的でした。

なお、天守閣とは反対側にも大きな展望用の窓を備え付けているので、天守閣から望む姫路の街並みも再現されていると言って良いかと思われます。

外壁の多層構造
外壁の多層構造

巧いなと思ったのは、補修にあわせた展示内容。

天守閣の外壁の漆喰は7層構造になっており、全体で40センチちかい厚みになるらしいのですが、それが視覚的に分かる展示がされていました。

また、改修工事の全体像が分かるジオラマ模型が置いてあったり、なによりもポイントポイントで充実したボランティアガイドがついていることには本当に感心します。
案内板も日本語、英語で設置されているのですが、ガイドの言葉の方が情報量も多く興味深い話が聞けるので、たまには足を止めてみるのも一興です。

この「天空の白鷺」、2011年3月にオープンして同11月に入城者が100万人を突破し、日本サインデザイン協会の演出サイン部門サインデザイン優秀賞や、日本ディスプレイデザイン協会のディスプレイデザイン賞企画・研究特別賞を受賞するなど非常に評価されています。
お盆の時期に行った友人は行列に諦めたとか。休日には入場制限があるので、前もってインターネット上で予約を受け付けています。

この手法を見て感じたのは、「観光資源の活用の勘所を巧く押さえたな」ということ。

失礼を承知で言えば、姫路には姫路城以外に有力な観光資源が見当たりません。
姫路城の見学を停止してしまった場合、改修期間の6年間の間に姫路の観光産業は壊滅的なダメージを受けてしまったでしょう。
実際には、2010年には3億6千万円以上の減収が推計されるとのことですが、これだけで済んでいるのは姫路城という観光資源の特性を理解して、最も有力な資源に力を集中させたからだと言えるのではないでしょうか。

「城」の観光に求めるもの……人によって違うのかもしれませんが、私が想像するに

  1. 城そのものを含んだ風景
  2. 天守閣など高台から見える風景
  3. 城を中心とした街の風景

 

なんじゃないかと思います。
姫路の場合、城下町としての街並みの魅力は乏しく(姫路駅から城まで一直線で伸びる街並みをもっと活かせば良いなと思うのですが)、なんといっても白鷺城の美しさが一番です。

改修によって完全に削がれるその魅力を、「天空の白鷺」で逆に「普段は見られないほどの距離で見られる」というプレミアム感を加えることで、姫路城そのものの美しさを知り「改修が終わったら見に来よう」という意識を植え付ける効果を狙うことができます。
例えば、私の住む大阪にある大阪城では、今年はモトクロスの世界大会が行われましたが、こういう一過性のイベント誘致(しかも、この場合、来場者の多くは城ではなくイベントだけを楽しんで終わりでしょう)に頼ることもできたはずですが、こういう手法をとったのは本当に巧いと思います。

……と、そんなことを考えた姫路観光の一日でした。
姫路城は初めてでしたが、天守閣への道程もなかなか美しく、改修が終わればまた一度行ってみたいなぁ……思うつぼですね、ホンマに。

まったく余談ではありますが、姫路市さん、来年のNHK大河ドラマが黒田官兵衛だということもあって、姫路城の大手前公園に大河ドラマ館を造るなんて話が出ているようです……そういう一過性のブームにのって大丈夫? って、余計なお世話ですか……失礼。