- 2016年2月23日
キャラメルボックス「フォゲット・ミー・ノット/きみがいた時間、ぼくがいく時間」39年分の思いが胸にしみる
劇団結成から31年目の演劇集団キャラメルボックス。今年最初の演目は梶尾真治さん原作の「クロノス・ジョウンターの伝説」から……
ロバート・A・ハインラインの「夏への扉
」はウチにとって特別な作品です。
いや、「ウチにとって」やないですね、「夏への扉」というとSF小説のベストは? と聞くと必ず登場する作品で、旧訳の発行日は1979年、物語の舞台は1970年と「未来」の2000年。SF小説の古典中の古典、名作中の名作と言って良い作品です。
そんな作品を演劇集団キャラメルボックスが「世界初舞台化」すると聞いたのは昨秋。同劇団は、これもウチがめっちゃ好きな北村薫さんの「スキップ」を2004年、東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」を2009年に舞台化していて、そのどちらも原作ファンを裏切らない出来でしたので、第一報を聞いたときにはめっちゃ嬉しかったのです。
ところが、初日が近づく度に高まる不安。
「好きな」作品、じゃないんですよね。やっぱり。「愛している」作品なのです。
今までにない緊張感を持ちながら、「世界初」の初日を観たいと思って予約をとって観劇してきました。
物語の舞台は1970年のアメリカ。技術畑一筋の技師ダニエルは、天才的なアイデアで掃除ロボットを作り上げるが、婚約者と友人に裏切られ、そして冷凍睡眠に掛けられてしまう。目覚めた時は2000年。愛猫のピートも、財産も、何もかも失った未来。ピートが探す「夏への扉」をダニエルは見つけられることはできるのか?
ウチが最初に「夏への扉」を読んだのは中学2年生(だったと思う。)。その頃のウチは、中学校の行き帰りは歩きながら、授業中は机の下で、雑読、乱読していました。,
少ない小遣いで本屋に入って、いわゆる「ジャケ買い」した小説が「夏への扉」で、読んで初めてタイムトラベルの世界に接しました。
ダニエルとピートに自身を重ね合わせて、自身も「夏への扉」を探していました。
今日(もう昨日ですが)のサンケイホールブリーゼ、やはりウチと同じように「夏への扉」に接した方が多かったのか、いつものキャラメルボックスの客層とは異なり、ウチよりもお年を召された方も多かったように感じました。
舞台化の上で、一番難点になるのが「猫のピート」。映画やTVドラマのようにリテイクが可能なメディアと違って、舞台で本物の猫は使えません。そこで、舞台ではこういった時、人間の役者が「猫」を演じます。
キャラメルボックスでは過去にもスヌーピー、ゴールデンレトリバー、ハツカネズミを役者が演じたことがあったのですが、今回、猫のピートを演じたのは劇団の俳優の筒井俊作さん。最初、この配役を聞いた時には「ふざけんな!」と思いました。何と言っても、筒井俊作さんは劇団ではデブキャラ(でも、ほとんどが筋肉なんですけど)、どう考えてもウチが考える猫のピートに合わないと思えたのです。ピートは「彼」ですが、小柄なでコミカルな動きのできる稲野杏那さんでも良いんじゃないの? と本気で思っていました。
ですが、芝居が始まってストーリーが進んでいくにつれて、「あれ、これでもええんやないの?」と思うようになりました。勇気と男気のある猫のピート。ダニエルを演じる畑中智行さんとの対比も楽しいし、ムダな動きもなんだか猫っぽい。決して「可愛い」ピートではありませんが、これはこれでアリなんじゃないでしょうか。
脚本・演出家である成井豊さん、真柴あずきさんの素晴らしいところは「原作の魅力を絶対にスポイルしないこと」。原作にはない「アドリブに見えてしまう」笑いも、「ここだけは取っちゃいけない」「ここだけは変えちゃいけない」というツボを確実に抑えてあって、帰ってきて原作を読み返してみると結構カットされているのにカットされている感がないのです。
原作至上主義ではありませんが、「夏への扉」のように思い入れの強い作品にはとんでもなく大事なことで、最期まで安心して観ていられる大きな要因になっています。
物語が終盤にすすむと、ちょっと涙をすする音が劇場内で聞こえてきます。
「え? これ、そんなに泣く小説やないでしょ?」と思いながら、没頭していたのですが、ラストのラスト、あの名文がダニエルの口から発せられた瞬間に、ウチもグッと目から涙が溢れそうになってしまいました。
何回も読み返した小説の、何回も読み返した台詞。読み返した時って大体が自身にとって「冬」だったりするわけで、あの台詞で自身が刻んできたものを鷲づかみにされたような思いになりました。
初日で、台詞のとちりもあったり、動きにぎこちなさを感じる点もありましたが、ウチはラストに一気に涙腺崩壊させられかけた思いだけで、「観に来て良かった」と思えました。
「夏への扉」に思い入れが深い人ほどお薦めしたい。原作物の映画化でがっかりした経験を持つ人にこそお勧めしたい。そんな舞台でした。
大阪公演は週末の日曜日まで。平日はまだチケットは余っているようです。……もったいない。
大阪千秋楽の日曜日には行くつもりですが、できればもう一回くらい観に行きたいなぁと考えています。
なにより、海外の有名小説が原作ですので権利関係から映像化は不可、生の舞台を観に行くしかないのです。「夏への扉」に思い入れがあるのであれば、ぜひ時間を取ってほしいなぁと、提灯記事ではなく、本気でそう思います。
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